第二百十一話 5月9日/高橋悠里は幼なじみの彼女からのメッセージを確認する
悠里は晴菜からのメッセージをスマホの画面に表示させた。
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悠里!! いつの間に藤ヶ谷先輩とゲームで遊ぶ約束したの!?
恋愛に関しては鈍い上にぼんやりしてる悠里の意外な行動力にびっくりしてる。
あたしは藤ヶ谷先輩と悠里のゲーム内デートを邪魔する気はないから。
藤ヶ谷先輩とゲームで遊べない時には、あたしのことを誘って。
あたしも推している『九星堂書店』関連でたぶん忙しくしてると思うけど、時間が合ったら遊ぼうね。
そうだ。書き忘れるところだった。あたしの主人公の名前は『マーキース・ウォーレン』だよ。男子キャラ主人公で遊ぶのは、自分が歌劇団の男役になったみたいで新鮮で楽しいよ。父親はウォーレン商会の会長をしているみたい。
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「はるちゃん……っ。藤ヶ谷先輩と私、ゲーム内デートとかじゃないから……っ」
晴菜からのメッセージを読んでそう呟きながらも、悠里は『マリーとユリエルならお似合いかも……?』とちらりと思う。
リアルの悠里は平凡な容姿で特に勉強ができるわけでも運動ができるわけでもない。小柄で多少は細いかもしれないけれど、悠里のような女の子は中学校の教室にもそれ以外にもたくさんいる。
それに引き換え、要の容姿は美しい。要が廊下を歩くて、すれ違う女子生徒がちらりと視線を向けているのがわかる。
悠里が要に強く憧れているのは彼のアルトサックスの音色にどうしようもなく惹かれている面が強いのだけれど、でも、要のアルトサックスの音色を聞いたことがなくても彼に憧れ、恋をする女の子はたくさんいると思う。
だから悠里は自分が分不相応な望みを抱かないように、自制している。
夢を見て、傷つくのは痛くて悲しい。
美人な幼なじみの晴菜への橋渡し役を期待され続けてきたことで、恋愛関連の悠里の自己肯定感は低い。
家族に愛され、大切にされてきたので、人としての悠里自身には価値があると感じているが、異性からの恋愛対象としての自分には全く自信が持てないのだ。
でも、マリーは悠里とは違う。
マリーは肩までの栗色の髪に青い目を持つ可愛らしい少女だ。声も可愛い。
要の主人公のユリエルの圧倒的な美貌には劣るけれど『アルカディアオンライン』には能力値による補正がある。
マリーのCHA値を上げ続けていけば、NPCであるユリエルの父親にも『魅力的な女の子』として認められるかもしれない。
「……でも藤ヶ谷先輩はプレイヤーだから、ユリエル様にはマリーのCHA値の補正とか効果がないんだよね」
そう思い至って悠里はため息を吐く。
「あと、やっぱりはるちゃんの主人公ってウォーレン商会の会長の息子だったんだね。私の主人公のマリーとウォーレン商会とのトラブルは伝えない方がいいよね……」
悠里は考えた末に、晴菜への返信は『時間が合えば一緒に遊ぼうね。いつでも声を掛けてね』という短いものにした。
次は、要からのメッセージを確認しよう。
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