第百九十九話 マリー・エドワーズたちはウォーレン商会の本部に到着する
マリーと真珠を乗せた馬車は教会を出発して進み、ウォーレン商会の本部を目指して緩やかな速度で走る。
「ウォーレン商会ってどこにあるのかなあ?」
「くぅん?」
マリーと真珠は窓の外を見つめながら首を傾げた。
マリーは情報屋にうっかり質問すると対価を請求される可能性があることを学習しているので、情報屋には尋ねない。
だが、マリーが質問していないにも関わらず、情報屋は口を開いた。
「この馬車はウォーレン商会の本部を目指していると思いますよ。ウォーレン商会の本部は東門からほど近いところにあるはずです」
「教えてくれてありがとうございますっ。でも情報の対価は払わないですよ……っ」
「きゅうん……」
首を横に振りながら言うマリーと項垂れる真珠を見て、情報屋は苦笑した。
「今のは私が勝手に話したことですから、情報の対価は頂きません」
「よかった……」
「わぅん……」
情報屋の言葉を聞いたマリーと真珠はほっとした。
まだウォーレン商会の手から『銀のうさぎ亭』の土地と建物の権利書を取り戻したわけではない。
マリーは絶対にウォーレン商会の会頭アーウィン・ウォーレンの詐欺行為を暴きたいと思っているが、でも、それが叶わなかった場合はウォーレン商会の会頭アーウィン・ウォーレンに10000000リズを渡さなければならず、今は、お金を無駄に使いたくはなかった。
道の両端には馬車に手を振っているプレイヤーたちの姿があったが、マリーは前回のように手を振り返す気持ちにはなれない。
真珠は楽しそうに目を輝かせて尻尾を振りながら、窓の外を眺めている。
マリーが緊張しながら膝の上で握りしめた自分の両手を見つめていると馬車が減速して停止した。
「どうやら目的地に着いたようですね」
「わんっ」
情報屋の言葉に真珠が肯く。
マリーは緊張して唇をぎゅっと引き結んだ。真珠はマリーの厳しい表情を見て不安になる。
御者席を下りた御者が馬車の扉を開けた。
まずは情報屋が先に馬車を下り、真珠がジャンプして下りる。
最後に残ったマリーは御者の手を借りて馬車を下りて、御者に礼を言った。
「ウォーレン商会の本部に到着しました。私は中には入らず、馬車で皆様をお待ちしています」
ウォーレン商会の本部から従業員らしき少年が出てきて、御者と馬車を案内していく。おそらく馬車を止める場所があるのだろう。
ウォーレン商会の本部の扉の前に立っていた白地に赤いラインが入った制服を着た男たち二人のうちの一人がマリーたちに歩み寄る。
マリーと真珠はその男の顔に見覚えがあった。
マリーが『港町アヴィラ領主の感謝状』を提示したのに『真夜中だから』という理由で領主館から追い返そうとした顎鬚を生やした男だ。
真珠は、あの時はマリーと一緒に大泣きをしてしまったけれど、今度こそはマリーを守るという強い意志をもってマリーの前に立ち、男に唸る。
「あの時のお嬢ちゃんとテイムモンスターか。テイムモンスターにはずいぶんと嫌われちまったなぁ……」
男の方も、領主館の前で大泣きしたマリーと真珠のことを覚えていたようだ。
肩を落としてため息を吐いた後、男は気を取り直して背筋を伸ばし、右手を自分の胸にあてて口を開く。
「ウォーレン商会の本部にてユリエル様とレーン卿がお待ちです。私がご案内を致します」
男に唸っていた真珠は困惑してマリーを見た。真珠の視線を受けたマリーは情報屋に視線を向ける。
情報屋はマリーに微笑んで肯き、それを見たマリーは少しだけ安心して真珠に視線を向けて肯いた。
そしてマリーは真珠を抱っこする。
「案内をよろしくお願いします」
代表して情報屋が男に挨拶をして頭を下げる。
男は情報屋に肯いてから背を向け、ウォーレン商会の本部へと足を進めた。
情報屋とマリー、マリーに抱っこされた真珠は男の後に続いた。
***
若葉月22日 朝(2時56分)=5月8日 17:56
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