第百九十七話 高橋悠里は転送の間で失言をしてプレイヤー善行値を減少させた後、ユリエルのメッセージを確認する



気がつくと、悠里は転送の間にいた。


「プレイヤーの意識の定着を確認しました。『アルカディアオンライン』転送の間へようこそ。プレイヤーNO178549。高橋悠里様。プレイヤーNO2985490ユリエル・クラーツ・ アヴィラからメッセージが届いています」


「えっ!? 藤ヶ谷先輩からメッセージ……!? あ……っ」


嬉しくてうっかり、ユリエルの中の人でリアルの中学の先輩である要の苗字を口にしてしまった悠里は慌てて自分の口を両手でおさえる。

ゲーム内でリアルの情報、しかも自分ではないプレイヤーのリアルの情報をうっかり漏らすなんて大変なことかもしれない。

プレイヤーレベルが上がる前の悠里なら気にしなかったかもしれないが、プレイヤーレベルが上がってリアルマネーの貯金を少しずつ増やしている今の悠里は自分の失言がすごく気になった。


「サポートAIさん。今の、聞いちゃいました……?」


悠里はおそるおそるサポートAIに問いかける。


「聞きました。転送の間での個人情報の漏洩はありませんので、ご心配なく。ですが、高橋悠里様のプレイヤー善行値は減少しました」


「うわああああああ……っ。やっちゃったぁ」


さっき、うっかり錬金術師ギルドマスターの暗殺計画が進行していることを漏らして頭を抱えていたクレムの気持ちがすごくわかる。

プレイヤー善行値はプレイヤーレベルに直結し、プレイヤーレベルは一日にゲーム内通貨をリアルマネーに変換できる金額等に関わるのだ。

プレイヤー善行値が上がったら嬉しいし、積極的に上げていきたい。うっかりミスでプレイヤー善行値が下がったらものすごく悲しい……。


「サポートAIさん。私のプレイヤーレベルって下がったりしてます……?」


自分でステータス画面を見て現在のプレイヤーレベルを確認する勇気が持てなかった悠里はユリエルのメッセージを画面に表示させながらサポートAIに問いかける。


「確認します。確認中……。確認終了。高橋悠里様の現在のプレイヤーレベルは10です」


「よかった。下がってなかった……」


明日もゲーム内通貨をリアルマネー1000円に換金できそうだ。

失言には気をつけようと思いながら、悠里はユリエルのメッセージに目を通す。





マリーちゃん。フレデリックお兄様が教会に来たんだ。聖人は教会で復活するから俺たちが教会にいると考えて、俺たちが死に戻ってからすぐに護衛騎士を教会に派遣したらしいよ。護衛騎士に教会の入り口を見張らせていたみたい。護衛騎士が来た後に俺たちが教会を出ようとしたら、護衛騎士と鉢合わせして、面倒なことになってたかもね。

教会に来たフレデリックお兄様と合流したから、今からウォーレン商会に向かうね。

マリーちゃんが乗るための馬車を教会に来させるように護衛騎士に命じておいたから、ゲームにログインしたら真珠くんや情報屋さんと一緒に馬車に乗ってウォーレン商会に来てね。





「ユリエル様がレアキャラの権力を使いこなしてる……っ」


悠里はユリエルのゲーム環境適応能力の高さに慄きながら、彼に『今からログインします』とメッセージを送信して画面を消した。


「じゃあ、私、ゲームをプレイしますね」


「それでは、素敵なゲームライフをお送りください」


サポートAIの声に送られ、悠里は鏡の中に入っていった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る