第百八十九話 マリー・エドワーズはユリエルが情報を売り終えた後、レーン卿が子どもの頃に女装させられた話を暴露する



「ユリエル・クラーツ・アヴィラは現在の港町アヴィラの領主の一人息子で、現在は7歳。母親はユリエルを産んだ後すぐに亡くなっているようです。ユリエルの容姿は母親に生き写しらしいです」


ユリエルの話を聞いて、マリーはユリエルの母親はすごく綺麗な女性だったのだろうなあと想像した。


「ユリエルは病弱で、今までのほとんどの時間を領主館の中で暮らしていたようです。家庭教師に勉強を教えられていたのですが、ユリエルの体調を心配した領主が短時間しか勉強させなかったみたいです」


「すげえ過保護だな。まあ、わかる気がするけど……」


「領主様は亡くなった奥さんのことをすごく愛していて、だからユリエル様のこともすごく大切にしていたんだろうねえ」


「くぅん……」


ユリエルの話を聞いたクレムとマリー、真珠はしみじみと肯く。


「俺の話はこんな感じです。他に話せることはないと思います」


ユリエルはそう言って話を終えた。

情報屋はユリエルの話を手帳に記してため息を吐く。


「ユリエルさんがNPCなら、私の顧客に高値で情報が売れたのにと思うと非常に残念です。乙女ゲーム好きの女性プレイヤーや、男女問わずショタキャラ好きのプレイヤーは湯水のようにお金をつぎ込んでくれたと思うんですよね……」


情報屋の言葉を聞いて、ユリエルは寒気がした。

クレムとマリー、真珠は顔を強張らせて自分の身体を抱きしめるようにしているユリエルに同情的なまなざしを向ける。

ユリエルと情報屋の話が終わったと思ったマリーは元気よく手を上げて口を開いた。


「はいっ!! 次は私の情報を買ってもらってもいいですかっ!?」


「マリーさん。お願いします」


「まずは私の髪を結んでいるリボンをご覧くださいっ。これは『しろばらくもいとのリボン』といいますっ」


「マリーちゃんによく似合って可愛いよね」


「まあ、似合うと言えば似合うかもな」


「わうー。わううわっ」


ユリエルとクレム、真珠に褒められてマリーは照れた。

だが、今は照れている時ではないと気を取り直して情報屋に視線を向ける。


「マリーさんによく似合いますね。『白薔薇蜘蛛糸』は高級素材なので、そのリボンの品質も高そうです」


「情報屋さんっ。このリボンは鑑定師ギルドの副ギルドマスターであり、港町アヴィラの領主様の甥、そしてユリエル様の従兄弟でもあるフレデリック・レーン卿に貰ったものなのですっ!!」


「その情報、詳しくお願いします」


マリーの口からレーン卿の名前が出たその時、情報屋の目の色が変わった。

フレデリック・レーンはマリーが創造したワールドクエスト『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』の重要NPCだ。その情報は今だからこそ高値がつく。


「このリボンはなんと……レーン卿が子どもの頃に女装させられた時につけたことがある逸品です……っ!!」


ドヤ顔でレーン卿の過去を情報屋に暴露して、マリーは胸を張る。


「うわあ……」


「気の毒に……」


「くぅん……?」


マリーの暴露を聞いた男子二人はレーン卿に同情した。真珠は顔をしかめる男子二人を不思議そうに見て首を傾げる。


「レーン卿が女装をした時の絵などはあるのでしょうか?」


「たぶん領主館にはあると思うんですけど、私と真珠は見せてもらえませんでした……」


「きゅうん……」


マリーの言葉を聞いた真珠は絵を見せてもらえなかったことを思い出して、少し寂しい気持ちになった。


「自分の女装姿とか絶対に人に見せたくないだろ……」


「絵が存在するというだけでも黒歴史……」


男子二人は声をひそめて話し合う。


「ここまでの情報、おいくら払っていただけるでしょうか……っ!?」


「そうですね。貴重な情報が含まれていたので金貨3枚でいかがでしょうか?」


「もう一声……っ」


マリーは情報屋に値上げ交渉を試みる。


「わうーっ!! わんわんっ!!」


真珠はマリーを応援した。


「そうですね。では金貨3枚に銅貨1枚を追加します。これ以上は出せません」


「それでいいです。ありがとうございます……っ」


マリーは情報屋から金貨3枚と銅貨1枚を受け取ってアイテムボックスに収納した。

その時に、レーン卿から受け取った鑑定結果を情報屋に渡そうとしていたことを思い出して、アイテムボックスから書状を取り出す。


「あの、情報屋さんっ。ご依頼の鑑定結果です。お納めくださいっ」


「ありがとうございます。マリーさん」


マリーから鑑定結果を受け取った情報屋は内容にざっと目を通して顔を上げ、微笑む。


「私が知りたかった内容が記載されています。ありがとうございます。前金の金貨20枚はそのままお納めください。後金として金貨10枚を支払います」


「ありがとうございます……っ」


マリーは情報屋から大喜びで金貨10枚を受け取ってアイテムボックスに収納する。

まだ売る情報はある。勝負はここからだ……!!

金貨を収納したマリーは気合を入れて情報屋を見つめた。


***


マリー・エドワーズが情報を売って受け取った対価 金貨13枚/銅貨1枚


若葉月22日 早朝(1時26分)=5月8日 16:26

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