第百八十八話 マリー・エドワーズは真珠、クレムと共にユリエルと情報屋のやり取りを見守る



「ようこそ。マリーさん。真珠くん。それからマリーさんのフレンドの方。はじめまして。情報屋のロールプレイをしているデヴィット・ミラーといいます。さあ、ソファーに座ってください」


情報屋がマリーたちにソファーをすすめると、情報屋に向かい合って座っていたクレムが席を立つ。


「オレ、情報屋の隣に移動するよ。マリーたちは二人と一匹で情報屋の向かい側のソファーに座れよ」


「ありがとう。クレム」


「わうわぉう」


マリーと真珠はクレムにお礼を言い、クレムと初対面のユリエルはクレムに会釈をしてクレムから譲られたソファーに座った。

クレムは情報屋の隣に座り、ユリエルに視線を向けて口を開いた。


「オレはクレム・クレムソン。酒場の息子で錬金術師。錬金術師ギルドの登録料を払うために家から金を持ちだしたら勘当されたんだけど、金を返して許してもらった。マリーのフレンドで、真珠の友達だ。よろしくなっ」


「よろしく。クレム。デヴィットさん。俺はユリエル・クラーツ・アヴィラです。仲良くしてもらえると嬉しいです」


「アヴィラ? 港町アヴィラと同じアヴィラなのか?」


首を傾げるクレムに答えようとしたユリエルをマリーが制止する。


「まだ答えないでくださいっ。ユリエル様」


「マリーさんの言う通りです。まだ答えないでください。私は情報屋のロールプレイをしているので、ここでの情報のやり取りには対価が発生します。情報は真偽を精査して私が売買に使用します。その条件で宜しければ、お話いただけますか?」


「俺が話したことに価値があれば、デヴィットさんがお金を払ってくれるということですか?」


「はい。それと、私のことは情報屋とお呼びください。顧客は皆、そう呼びますので」


「わかりました。情報屋さん」


ユリエルが肯いたことを確認して、情報屋は口を開く。


「それでは、ユリエルさんのことを話していただけますか? 価値がある情報であれば対価を支払います」


「なあ。ユリエルの情報って、オレが聞いていてもいいのか? オレは情報に金とか払わねえけど」


「俺はクレムに聞かれても構わないよ。マリーちゃんと真珠くんが信用しているフレンドだから俺もクレムを信じるよ」


「そっか? まあ、信じるって言われるのは気分いいな」


クレムは笑顔になって、頭を掻いた。

嬉しそうなクレムを見て、マリーと真珠はほのぼのとした気持ちになる。

情報屋は、ルームに満ちたほのぼのムードをぶったぎって口を開いた。


「では、ユリエルさん。情報をお願いします」


「はい。じゃあ、主人公キャラにユリエルを選んだ経緯から話しますね」


マリーと真珠、クレムはわくわくしながらユリエルの話を聞く。

情報屋はテーブルの上に置いてあった手帳を開き、万年筆を手にした。


「俺の家族がとある会社の株主で、株主優待に『アルカディアオンライン』のキャラコードを貰っていたんです。家族は『アルカディアオンライン』をプレイしないので、俺にコードをくれたんです」


「かぶぬしゆうたい?」


「くぅん?」


「かぶぬし? 野菜のカブとかじゃないよな?」


マリーと真珠、クレムは聞きなれないワードに首を傾げた。


「株主っていうのは、株式会社が発行している株を買った顧客のことだよ」


ユリエルが説明してくれたが、マリーも真珠もクレムもよくわからない。

首を傾げているマリーたちを見て、情報屋が苦笑しながら口を開いた。


「株主優待というのは、株というものを買ったらついてくるおまけだと考えてください。おかしにおまけのオモチャがついてくるようなものです」


「それならわかるぞっ」


「私もわかるっ」


「きゅうん……」


情報屋の説明を聞いてクレムとマリーはわかったが、真珠にはわからなかった。

真珠は耳をぺたんと頭にくっつけて項垂れる。


「真珠にもわかるように説明……っ。どうすればいいかわかんない……っ」


「真珠はオマケとオモチャがわかんないのか?」


パニックになるマリーの代わりに、クレムが真珠に問いかける。

真珠はクレムに肯いた。


「あっ。思いついたっ。真珠。この前、一緒にから揚げを食べたことを覚えてる?」


マリーの言葉に真珠は肯く。


「ええと、オマケっていうのはね、から揚げを一個食べたらもう一個ついてくるようなお得なものなんだよ」


「わおんっ!!」


真珠はマリーの説明で『オマケ』について理解した!!

情報屋はオマケのことを理解できて嬉しい真珠と、真珠の賢さを褒め称えるマリーに微笑んで、ユリエルに視線を向けた。


「ユリエルさん。真珠くんも話を理解できたようなので、話を続けて頂けますか?」


嬉しそうなマリーと真珠を温かく見つめていたユリエルは情報屋と視線を合わせて肯く。


「ゲームにログインして『転送の間』でサポートAIにキャラコードを伝えたら、五人のキャラが提示されて。それで、その中から港町アヴィラ在住の男子キャラを選びました。それがユリエル・クラーツ・アヴィラです」


「大変興味深い情報です。とある会社というのがどの会社なのか教えて頂けるのであれば金貨3枚、そうでなければ金貨1枚を対価としてお支払いします」


「初っ端の情報から金貨3枚とかすげえなっ」


「さすがユリエル様……っ」


「わおん……っ」


クレムとマリー、真珠に尊敬のまなざしで見つめられて、ユリエルは苦笑した。

そして少し考えて口を開く。


「株主優待は、ゲーム会社『フリーダム』のものです」


「わかりました。リアルで株主優待情報を調べてみます。ユリエルさんはレアキャラ主人公だと思われるので、情報は信頼できるものだと見なして、金貨3枚をお支払いしますね」


「ありがとうございます」


ユリエルは情報屋から金貨3枚を受け取る。


「ユリエル様。金貨を左手の腕輪に触れさせるとアイテムボックスに収納できますよ」


「取り出す時はステータス画面を出現させて、画面の下の方にあるアイテムボックスっていうところをタップするといいぜ」


マリーとクレムが交互にユリエルに説明する。ユリエルはマリーとクレムに肯いて金貨を左手の腕輪に触れさせた。

そしてステータス画面を出現させて、金貨3枚がきちんと入金されているか確認する。


「さっきまで0リズだったのが300000リズになってる」


「ユリエル様。すごいですっ」


「おめでとうっ」


「わうわぅうっ」


マリーとクレム、真珠が初報酬を受け取ったユリエルを祝福する。


「ありがとう」


ユリエルはマリーとクレム、真珠にお礼を言って微笑んだ。

その微笑みを見たクレムは頬を引きつらせる。


「ユリエルの顔面偏差値の高さ、やべえな」


「ユリエル様って本当に綺麗でかっこいいよね」


「わっううう!!」


マリーと真珠はユリエルのグラフィックの美しさを褒め称える。


「ユリエルさん。話を続けてください」


情報屋の心にはユリエルのグラフィックの美しさは刺さらないようだ。

ユリエルは情報屋に肯いて、口を開いた。



***


ユリエルが情報屋から受け取った対価 金貨3枚


若葉月22日 早朝(1時17分)=5月8日 16:17



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