第百八十六話 マリー・エドワーズはユリエルをフローラ・カフェ港町アヴィラ支店に案内する



気がつくと、マリーは教会にいた。真珠も一緒だ。

マリーよりも先に死に戻っていたユリエルがマリーを見つけて声を掛けてくれた。

貴族っぽい格好をしているマリーとユリエルは周囲の注目を集めながら、真珠と共に死に戻りプレイヤーの邪魔にならないように壁際に寄る。


「ユリエル様。あの、私、フレンドにメッセージを送ってもいいですか? マリーの固有クエストを達成するために必要なことなんです」


「うん。いいよ。俺はスキル習得画面で欲しいスキルとか見てるから、用事が済んだら声を掛けて」


「ありがとうございますっ」


マリーはユリエルにお礼を言って、情報屋に『依頼を達成したから、できるだけ早く会いたい。今、フレンドと一緒だから、会う場合はフレンドも同席することを許可してほしい』という内容のメッセージを送信した。

ユリエルはマリーがメッセージを送り終えたことに気づいて自分のステータス画面を消去して口を開く。


「マリーちゃんはメッセージの返事を待ちたいよね。その間、どうする? どこかで時間を潰せればいいんだけど……」


「あっ。じゃあ、プレイヤー専用のカフェに行きましょう。テイムモンスターも入れるんです」


マリーはあえて、カフェの名前を伏せて伝える。

ユリエルにもマリーが最初にカフェを訪れた時の驚きを味わってほしい。

マリーは真珠を抱っこして、ユリエルを先導する。


マリーは教会の壁に描かれた女性の絵を正面に見て、右手の扉の前に足を進めた。

銀色の扉の中央に、青い水晶が埋め込まれている。

マリーは扉の青い水晶に視線を向けて口を開いた。


「ユリエル様。扉の中央にある青い水晶に腕輪をかざしてもらえますか?」


「わかった」


ユリエルはマリーの言葉に従い、水晶に腕輪をかざすと、扉が開いた。

ユリエルは二度瞬いた後、ふわっと微笑む。


「なんか魔法で開く扉みたいで楽しいね」


「ですよねっ」


「わうんっ」


真珠を抱っこしたマリーとユリエルは扉の中に足を進める。

カウンターにいた神官に会員登録をしてもらい、マリーは登録料銀貨5枚を支払う。

マリーの所持金は4259201リズになった。ユリエルと楽しい時間を過ごすための投資だ。これは必要経費なのだとマリーは自分に言い聞かせた。


「会員NO178549マリー・エドワーズ様。確かにカードをお預かり致します。お帰りの際にはご返却を致しますので、お声がけください」


背が低くてカウンターに顔を出せないマリーのために、カウンターの外に出て会員カードを受け取った神官がにこやかに言う。


「よろしくお願いしますっ」


マリーは手続きのために床に下ろしていた真珠を抱っこして、神官に会釈をした。

マリーが会釈をしたので、真珠も真似をして会釈をする。

その様子をユリエルが温かく見つめて微笑んだ。


真珠を抱っこしたマリーはユリエルを促して店内に足を進める。

ユリエルは、店内を興味深げに見回している。

青い壁紙に白い花の模様や、花をあしらった水色のテーブルや椅子を見て、彼は口を開いた。


「このカフェ、フローラ・カフェに似てるね」


ですよね!!

ウェインに初めてこの店に連れて来てもらったマリーと同じことを口にするユリエルにマリーはドヤ顔で胸を張り、口を開く。

今こそ、ウェインからの受け売り知識を披露する時……!!


「この店はフローラ・カフェなんですよっ。フローラ・カフェ港町アヴィラ支店ですっ」


「そうなんだ。ゲームでもフローラカフェに来られるとは思わなかったな」


フローラ・カフェは新型コロナが蔓延する中で関東圏を中心に店舗数を増やしているカフェで、リアルにあるフローラ・カフェ星ヶ浦駅前店には悠里と要が一緒に入ったことがある。

マリーとユリエルは四人掛けのテーブルを使うことにした。


マリーとユリエルは貴族の子女カップルっぽい上にマリーは子犬のようなテイムモンスターの真珠を抱いているのでひそかに店内にいるプレイヤーの注目を浴びているがマリーと真珠はそのことに気づかず、ユリエルは視線をスルーした。

ユリエルは真珠を抱っこしているマリーのために椅子を引いてくれた。


「ありがとうございます……っ」


マリーはユリエルにお礼を言って真珠を抱っこしたまま、椅子に座った。

まるで乙女ゲームのイベントのようで、マリーの心が弾む。

ユリエルはマリーと真珠の向かい側の席に座った。


「ユリエル様。なにか飲みますか? 真珠はミルクでいい?」


「くぅん?」


真珠はミルク以外の飲み物をよく知らなかったので首を傾げる。

ユリエルは首を横に振って口を開いた。


「俺はなにもいらない。マリーちゃんは借金の返済をしなくちゃいけないかもしれないんだから、節約した方がいいよ。俺は今、所持金が0リズだから今は何の力にもなれなくてごめん」


「そんなっ。ユリエル様はなにも悪くないです。悪いのはお祖父ちゃんを騙したウォーレン商会が……っ」


マリーがそう言いかけたその時、可愛らしいハープの音が鳴った。

情報屋からの返信が来たのかもしれない。


「ユリエル様、真珠。フレンドからメッセージが来たみたいなので確認しますね」


「うん。マリーちゃんがメッセージを確認する間、俺が真珠くんを抱っこしていてもいい?」


「えっ。あ、えっと、真珠、どうする?」


「わんっ」


真珠はユリエルに抱っこしてほしかったので尻尾を振った。

マリーは真珠が嬉しそうにしているのを見て、真珠をユリエルに渡す。


「ユリエル様。真珠をよろしくお願いします」


「うん。任せて。真珠くん。なにをしようか? 一緒にカフェのメニューとか見る?」


「わんっ」


美少年と可愛い子犬のほのぼのとしたやり取りに癒されたマリーは、いつまでもその光景を見ていたい気持ちを切り替えて、メッセージを確認するためにステータス画面を出現させた。


***


マリー・エドワーズの現在の所持金 4264201リズ → 4259201リズ(カフェの会員登録料を支払ったため)


若葉月21日 真夜中(6時57分)=5月8日 15:57

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