第百七十九話 高橋悠里は憧れの先輩とゲーム内で会う約束をする



空になった『真・旨辛紅蓮麺』のカップと蓋、そして先が真っ赤になった割りばしをキッチンのゴミ箱に捨てた悠里はダイニングに戻った。

スマホを持って自室に戻ろうとしたその時、手の中のスマホが鳴る。


「えっ!? 藤ヶ谷先輩……っ!?」


憧れの先輩からの直電に、悠里はパニックに陥る。

とにかく通話をしなくちゃ……っ!!


「あ、あのっ。高橋ですっ」


「藤ヶ谷です。突然、直電してごめんね。高橋さん、今話しても大丈夫?」


「はいっ。大丈夫ですっ」


悠里は力強く肯く。

『真・旨辛紅蓮麺』を食べ終えていてよかった。


「さっき、うちに『アルカディアオンライン』のゲーム機器が来たんだ。だから、よかったらこれから一緒に遊べないかと思って」


「遊びたいです!!」


悠里は今日、すでに5月8日分の2時間45分はプレイしてしまったけれど、あと3時間15分は遊べる。

『アルカディアオンライン』は1日のうち6時間しかプレイできない。制限をかけないと際限なく遊び続けるプレイヤーが出てしまうというのがゲーム制作スタッフの見解だった。


「高橋さんの主人公がいるのって港町アヴィラっていうところなんだよね? 名前はマリーちゃんだったよね」


要は以前、悠里が話したゲームの話を覚えていてくれたようだ。

喜びを噛み締めながら、悠里は肯く。


「はい。そうですっ」


「じゃあ、俺も港町アヴィラに住んでいるキャラから主人公を選ぶよ。待ち合わせ場所はどうしようか?」


「港町アヴィラの教会はどうですか? 主人公として目覚めた後にMPにスキルポイントを振ってもらえれば教会に死に戻れるので、会えると思うんですけど……」


「やってみるね。じゃあ、またゲームで」


「はいっ。失礼します……っ」


悠里は要との通話を終え、スマホを握りしめた。そして自室へと走り出す。

歯磨きをしている場合じゃない。ゲーム内で要を待たせるわけにはいかない。

届いたゲーム機器はすでに充電されているので、要はすぐにゲームを始められるはずだ。

『転送の間』でサポートAIからの説明を受けて、主人公を選ぶとゲーム開始になる。

要がゲームを始めて教会に死に戻る前に、なんとしてもマリーが教会に死に戻らなければならない……!!


悠里は自室に駆け込み、スマホを机の上に置いて、ベッドの上に放り出していたゲーム機とヘッドギアの電源を入れてヘッドギアをつけた。

ベッドに横になり、目を閉じる。


「『アルカディアオンライン』を開始します」


サポートAIの声がした直後、悠里の意識は暗転した。


気がつくと、悠里は転送の間にいた。

パジャマ姿だったが、今はそんなことはどうでもいい。


「プレイヤーの意識の定着を確認しました。『アルカディアオンライン』転送の間へようこそ。プレイヤーNO178549。高橋悠里様」


「サポートAIさん!! 私、すごく急いでいるのでもう行きますね……っ!!」


「それでは、素敵なゲームライフをお送りください」


サポートAIの声に送られ、悠里は鏡の中に入っていった。




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