第百七十四話 マリー・エドワーズたちは霧の穴を通り抜ける順番を待つ



列の一番前のプレイヤーが四つん這いになり、霧の向こうに姿を消す。

マリーたちのが先頭になる順番が少しずつ近づいてくる。マリーは一応、穴を確認しておこうと考えて口を開いた。


「魔力視ON」


マリーはプレイヤーの列から少しはみ出して、穴を確認する。


「穴、あった。魔力視OFF」


「マリーちゃんって『魔力視』を取ってたんだね。ウチは『魔力視』を取ってるプレイヤー初めて見たよ」


「『魔力視』は死にスキル扱いされてるからな」


アーシャの言葉にクレムが応じる。『魔力視』は死にスキルという部分に反応して、マリーは口を開いた。


「でも『魔力視』で霧の穴を見つけたんだよ」


マリーの言葉を聞いた、マリーたちの前に並んでいる男性プレイヤーが振り返る。

彼は二十代くらいの青年キャラだ。身に着けているのはシルバーフォレストウルフのベストとレッグカバーだろうか。


「幼女が霧の穴を見つけたのか?」


「……はい。そうです」


突然、見知らぬプレイヤーに話しかけられて怖くなったマリーは、そう答えた後に後ろに一歩後ずさる。

真珠はマリーを守るために、マリーの前に立って青年に唸った。

マリーの怯えた表情を見て、青年は頭を掻いて口を開いた。


「悪い。怖がらせたな。話が聞こえたから、つい、話しかけちまったんだ」


謝ってくれた青年に、マリーは首を横に振る。


「お兄さんは悪くないです。私、ゲームで知らないプレイヤーと話すのがちょっと怖いので……」


「悪気はなかったんだ。ホント、ごめん」


青年は再びマリーに謝り、フレンドらしき女性プレイヤーに怒られながら前を向く。

真珠は警戒態勢を解いた。マリーは真珠にお礼を言って、息を吐く。


「……びっくりした」


「マリーは人見知りなのか? オレと初めて話した時は別に怖がってなかったよな?」


クレムの問いかけに、マリーはクレムと初めて会った時のことを思い返す。

クレムと出会ったのはプレイヤーが集まる広場だった。クレムは広場で露店を開いていたのだ。

マリーはクレムが売っていたビー玉に惹かれて彼の露店の前で足を止めた。

真珠をクレムに紹介し忘れてしまったことは苦い思い出だ……。


「ビー玉に夢中になってたし、クレムは露店の人って感じだったから怖くなかったのかも」


「マリーちゃんは、店員とかギルドの受付とかは怖くないけど、脈絡なく話しかけてくるタイプのプレイヤーが怖いのかもね。……じゃあ、イヴのことが怖かったよね」


いたわるように言うアーシャにマリーは乾いた笑みを浮かべる。

今は、イヴのことが好きになったので警戒していた時のことを蒸し返したくない。


やがて、マリーたちが列の先頭になった。四つん這いになって、ハイハイをして霧の向こうを目指そう。

マリーは再び魔力視で霧の穴を確認しながら四つん這いになり、高速ハイハイで穴の中に突っ込んだ。


***


若葉月19日 夕方(4時48分)=5月8日 1:48



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