第百七十三話 マリー・エドワーズたちはイヴと別れて列の最後尾に並ぶ



「あたし、パス。ハイハイとか無理……っ」


イヴが小さく左手を上げて申告する。マリーは無理もないと納得した。

マリーは5歳の幼女だから恥も外聞も捨てて四つん這いになり、高速ハイハイができたのだ。

立って歩けるようになる前にハイハイをした記憶と経験が色あせなかったからこそ、あのハイハイにたどり着けた……。

だがイヴは15歳くらいの少女だ。リアルでいえば中学三年生の女子生徒の見た目だ。

ハイハイをしたくないという気持ちは痛いほどわかる。マリーが悠里だったら、きっとハイハイをしなかっただろう。


「ウチは行くっ。ガラスの欠片に興味あるし……っ」


決然とアーシャが言って、手にしていた弓と背負っていた矢筒をアイテムボックスに収納する。

マリーはアーシャの決意を心の中で称賛した。真珠は常に四つん這いの状態なので、イヴがなぜ四つん這いになるのが嫌なのだろうと不思議に思った。


「オレも行く。四つん這いになってやるっ。ガラスの欠片を手に入れるためだ……っ」


クレムが意思表示をして、パーティーメンバーの意向が決まった。イヴはステータス画面を出現させてパーティー離脱の操作をする。


「あたしはヒール草とかマナ草を適当に採取してから街に戻るよ」


「イヴさん。ここまで一緒に来てくれてありがとうございましたっ」


「わぅわううわううわうわっ」


マリーと真珠はイヴに感謝を込めてお礼を言い、頭を下げる。


「あたしも楽しかったし、お礼とかいいよ。また一緒にパーティー組もうね」


「イヴ。ひとりにしてごめんね」


申し訳なさそうに言うアーシャにイヴは首を横に振る。


「気にしないで。元々、ヒール草とかマナ草を採取しに西の森に来たし、リアルでは夜更かししてるっぽい気がするからそろそろロ……じゃなくてゲームを終わりにしたいし」


リアルで夜更かし……!!

イヴの言葉にマリーの鼓動がどくんと鳴った。ゲームで遊ぶのが楽しすぎて、どのくらい時間が経ったのか全然わからない。


「明日は土曜日で休みなんだから、別に夜更かししたっていいじゃん」


唇を尖らせてクレムが言う。


「明日じゃなくてもう、今日が土曜日かもしれないけどね……」


ため息を吐きながら、アーシャが言った。


「ほらほら、みんなは早く列に並んで。じゃあ、あたしは行くね。四つん這い、頑張って」


イヴは笑って手を振り、軽やかな足取りで去っていった。

マリーは手を振り、真珠は吠えてイヴを見送る。

イヴを見送ったマリーたちは、列の最後尾に並んで順番を待った。


***


若葉月19日 夕方(4時39分)=5月8日 1:39



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