第百七十二話 マリー・エドワーズとパーティーメンバーは西の森の最奥に到着する
猿の群れと戦った後はモンスターと遭遇することもなく、マリーたちは順調に森の奥へと足を進める。
「猿とのバトル、アーシャさんもイヴさんもすごくかっこよかった!! 二人とも強いね……っ!!」
「わうわお……っ!!」
マリーと真珠の尊敬の視線を浴びたアーシャとイヴは微笑む。
「真珠もすごく勇敢だったよ」
「うん。真珠くん、すごくかっこよかった。それに、真珠くんを受け止めたマリーちゃんの動きも素早かった」
イヴとアーシャに褒められた真珠、アーシャに褒められたマリーは嬉しくて視線を合わせて微笑む。
「このパーティーでの初バトルは成功だよな。誰も死に戻らなかったし」
クレムの言葉にパーティーメンバーはそれぞれに肯いた。
「ねえ。ウチらってどこに向かってるの? マリーちゃんと真珠くん、クレムはどこに行く予定なの?」
首を傾げてアーシャが尋ねる。クレムに問うような眼差しを向けられ、マリーは肯いた。
マリーが肯いたことを確認したクレムが口を開く。
「オレらは西の森の最奥を目指してる。霧がかかった場所に行きたいんだ」
「霧を抜けたら西の森の入り口に戻っちゃうだけなのに? そんなところになにしに行くの?」
「あー。えーっと……」
クレムは理由を口にするか迷ってマリーを見た。
マリーは困惑しているクレムをフォローするべく、口を開く。
「イヴさんとアーシャさんがいなければ、私と真珠が死に戻っていたかもしれないから、全部話してもいいよ」
「そうだよな。じゃあ、全部話すよ。オレさ、マリーに『ガラスの欠片』が落ちている場所を教わる約束をしてるんだ」
「『ガラスの欠片』ってもしかして錬金素材だったりする?」
クレムの言葉にアーシャが食いつく。クレムはアーシャに肯いた。
「でも、西の森の最奥にガラスの欠片が落ちている場所なんてあった?」
首を傾げて言うイヴにマリーは微笑んで口を開く。
「それは霧のところに着いてから話すね」
『こおうのりょういき』の情報は、情報屋に売ったものだ。
周囲にいるプレイヤーやNPCの耳に入れたくはなかった。
無料で情報を漏らしてしまうなんて、もったいない!!
マリーたちは雑談をしながら歩き、西の森の最奥、霧が覆う場所に着いた。
マリーたち以外のプレイヤーの姿がある。プレイヤーたちは霧の前の一か所に一列に並び、一番前の者が四つん這いになって霧に突進していた。
「なにあれ? ハイハイしてる……?」
イヴは、大人キャラのプレイヤーがハイハイしている姿にドン引きした。
「私たちも今から、あの列に並びます」
マリーはパーディーメンバーにおごそかに宣言する。
「えっ。なんで……?」
アーシャはマリーの言葉の意味が掴めず、問い返す。
「ガラスの欠片が落ちているのは霧の向こう側です。そこに行くための穴は小さくて、ハイハイしないと通れないの」
「マジか……」
マリーの言葉を聞いてクレムは天を仰ぐ。
茜色の空が、目に鮮やかに映る。……ガラスの欠片か、ハイハイ拒否か。
それは重大な問題だった……。
***
若葉月19日 夕方(4時34分)=5月8日 1:34
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