第百六十八話 マリー・エドワーズはパーティーメンバーと戦い方について話す
フレンド登録を終え、パーティーを組み終えたマリーたちは西門を出るための列の最後尾に並んだ。
リアルでは金曜日の夜、土曜日が休みの学生プレイヤーや社会人プレイヤーがゲームをプレイしているためか、長蛇の列になっている。
列にはプレイヤーだけでなくNPCの姿もあった。
アーシャは長蛇の列を見てうんざりとした表情を浮かべる。
「いつも思うけど、西門から西の森に出る時の検閲ってすごく面倒くさいよね。ワープとかできればいいのに」
マリーと真珠はアーシャの言葉に何度も肯く。
「まあ、ゲームの仕様に文句言っても仕方ないじゃん? オレら、基本無料でめっちゃ遊ばせてもらってるわけだしさ」
クレムはアーシャの愚痴を軽く受け流して、話を続ける。
「それより、パーティーでの戦い方とかの話をしようぜ。オレは錬金術師で攻撃手段はチャチい爆弾を投げること。種族レベルは11で後衛希望。バトルはあんまり得意じゃない」
「クレムは爆弾を持ってるんだ。すごいねっ」
「わううわっ」
マリーと真珠がキラキラした目でクレムを見つめて言うと、クレムは苦笑して口を開く。
「爆弾っていってもすげえチャチいやつ。マジで。西の森で採取できるボム草を錬金して作ったランクDアイテム」
「ちゃんとした爆弾なのにランクDアイテムなの?」
「わう?」
クレムの言葉を聞いたマリーと真珠が首を傾げると、クレムは肯いて口を開いた。
「錬金術師ギルドで貰った『初級錬金術教本』にはそう書いてあった」
「へえ。錬金術師ギルドに登録すると『初級錬金術教本』が貰えるんだね。レシピ本ってやつ?」
クレムの話にアーシャが食いつく。クレムは肯いて口を開いた。
「そう。レシピ本だな。『初級錬金術教本』にはランクDアイテムのレシピが載ってる。DEX値が低くても成功しやすい錬金アイテムが多いよ。ちなみに『中級錬金術教本』は有料でギルドランクがCにならないと買えない」
「でもバカ正直にレシピ本を買わなくても、錬金術師のプレイヤーにレシピを教えてもらえばいいんじゃない? メモとかしてもらって」
イヴの言葉にマリーは慄く。
それは錬金術師ギルドのギルド員NPCの友好度が大幅に下がる行為ではないだろうか。
イヴの言葉を聞いたクレムは眉をひそめた。
「オレはこのゲームに限らず、錬金系のゲームが好きだからレシピの入手とかは自力でやりたいんだよな。金を貯めて新しいレシピ本とか買うと滾るじゃん?」
「わかる……っ」
クレムの言葉にアーシャが同意した。
「ウチも錬金系のゲームが好きで、だから真っ先に錬金術師ギルドに登録しに行ったんだけど、登録料が高すぎて払えなくて……。孤児キャラはNPCとの人間関係が薄いから自由にプレイしやすいと思って選んだんだけど、主人公をお金があるNPCの子どもとかにすればよかったって思った」
「悪役ロールしてもいいってサポートAIに言われたけど、NPCから強盗とか嫌だしね」
イヴの言葉を聞いたマリーと真珠は、イヴのNPCに対する倫理観にほっとした。
イヴは他人の表情を見ずに自分の気持ちだけでぐいぐい行動するところがあるが、根は良い子なのかもしれない。
「じゃあ、次はウチの攻撃スタイルとか話すね。弓持ってるし、矢筒を背負ってるから言うまでもないかもだけど『弓使い』だよ。リアルで弓道部だから弓を使いたかったの。種族レベルは25だよ」
アーシャはサラっとリアルの情報を口にしたのだけれど、知り合って間もないマリーとクレムにそんなことを話していいのだろうか。
『弓道部だから』という情報でアーシャが学生だということはほぼ確定した。
「『弓使い』ってことはアーシャも後衛希望だな。イヴは『剣士』か? ショートソードを持ってるし」
「うん。あたしはショートソードを使ってるよ。でも剣術スキルとか一個も取ってないから『剣士』ってわけじゃない」
「イヴはスキルを一個も取らずに、スキルポイントを能力値に振り分けてプレイしてるの」
アーシャがイヴの言葉を補足して言う。
「イヴさん、スキルを一個も取ってないのっ!?」
「わうわっ!?」
欲しいというただそれだけで『淑女の嗜み』スキルを習得したマリーと、勢いで『淑女の嗜み』スキルを習得したマリーがその後で『メイドの心得』というスキルを取ればよかったと後悔していた様を見ていた真珠はイヴのプレイスタイルに驚く。
「スキルを取るより、まずはアバターをリアルの自分と同じ感覚で動かせるようになりたかったからまずは能力値を上げたの。種族レベルは32だよ」
マリーはイヴの言葉を聞いて衝撃を受けた。
リアルチート発言!!
そして種族レベルが32……!!
「イヴは女子バスケ部のエースだからね。運動神経も目もいいんだよね」
アーシャがリアルの情報を漏らしまくっている。
アーシャとイヴにマリーが初めて会った時は、アーシャはイヴに『いきなり知らない人に話しかけるのはマナー違反だから』とか『女子キャラを使ってるからって中の人が女子とは限らないし、幼女キャラでプレイしていても中の人が幼女とは限らないの。決めつけたらダメ』とネットゲームをプレイする上での注意事項を伝えていたはずなのに。
マリーはそう考えて、アーシャがうっかりイヴのリアルネームらしき『すず』という言葉を口にしていたことを思い出した。
アーシャは気を張っているとしっかり者だが、気が緩むとうっかりする性格なのかもしれない。
「へえ。イヴもバスケやってるんだ。オレもミニバスやってるよ」
クレムまでリアルの情報を漏らし始めた!!
『ミニバス』ってことはクレムは小学生……っ!?
このままパーティーメンバーのリアル情報が漏れ続けるのはマリーの精神衛生上に悪影響を与える。
話の流れを変えないと……!!
マリーはリアルの話からゲームの話に流れを変えるために口を開いた。
「じゃあ、イヴさんは前衛だねっ。よろしくお願いしますっ」
「わうわうわぉんっ」
種族レベル1の真珠は自分が弱いことをわかっているので、イヴにきちんと頭を下げた。
「マリー。真珠。攻撃はまかせてっ」
胸を張って笑うイヴが頼もしい。
マリーと真珠がイヴとパーティーを組んでよかったのかもしれないと思い始めたその時、イヴが首を傾げて口を開いた。
「真珠は牙とかで噛みついて戦うんだと思うけど、マリーはどうやって戦うの? 武器とかアイテムボックスにしまってあるんだよね?」
「う……っ」
イヴに問いかけられてマリーは呻いた。
こうなったら正直に打ち明けるしかない。
「武器は……ないです……。あと私と真珠、種族レベルが1です……」
「マリーと真珠は寄生プレイ希望なんだね」
明るい笑顔でイヴが言う。
寄生プレイ!! それネットゲームでやっちゃダメなやつ……!!
マリーは弱い上に武器も持たずにバトルに参加する罪の重さに打ちひしがれ、真珠は落ち込むマリーを心配して鳴いた。
***
若葉月19日 昼(3時21分)=5月7日 24:21
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