第百六十六話 マリー・エドワーズたちはアーシャとイヴに自己紹介する



「マリー。この子、マリーのフレンド?」


マリーに声を掛けてきたイヴを見て、クレムはマリーに問いかけた。


「そうだよ。友達」


「ううん。フレンドじゃないよ」


「ううう……っ」


イヴとマリーの答えが食い違い、真珠がイヴを警戒して唸っているのでクレムは戸惑う。


「ちょっと、イヴ!! 横入りしないで、ちゃんと列に並んで……っ!!」


すらりと背が高いイヴを、三つ編みをした小柄な少女が窘める。

なんか、この光景を前にも見た……と思いながら、マリーはため息を吐いた。

三つ編みをした少女に窘められたイヴは唇を尖らせた。


「横入りじゃないし。友達を見かけたから声をかけただけ」


マリーはイヴの死角で、でも三つ編みをした少女に見えるように激しく首を横に振る。

三つ編みをした少女はマリーに頭を下げる。


「ウチのフレンドが迷惑をかけたみたいでごめんなさいっ」


三つ編みをした少女が悪いわけじゃない。でもイヴをどうにかしてほしい。

複雑な思いが絡み合い、どう答えていいのかわからないマリーの肩を軽く叩いてクレムが口を開いた。


「とりあえず、列を離れようぜ。並んでる後続のプレイヤーたちに迷惑だし。プレイヤー善行値が下がるの嫌だろ?」


クレムの言葉にマリー、イヴと三つ編みをした少女はそれぞれに肯き、真珠も唸るのをやめる。

そして一行は並んでいた列を離れた。


マリーたちはプレイヤーたちの邪魔にならないスペースに移動した後、いびつな円を作ってそれぞれに顔を見合わせる。


「まずは自己紹介とかしとく? オレはクレム・クレムソン。錬金術師ギルドに所属する錬金術師だ。よろしくな」


クレムの自己紹介を聞いた三つ編みの少女が目を輝かせた。


「やっぱり錬金術師なんだっ。その青色のローブって錬金術師ギルドで見たからそうじゃないかと思ってたんだ。すごいねっ。錬金術師ギルドって登録料が高いのに……」


三つ編みの少女に褒め称えられたクレムはまんざらでもない表情になり、口を開く。


「家から持ちだした金で錬金術師ギルドの登録料を支払ったんだ」


「うわぁ。泥棒……」


クレムのぶっちゃけた話を聞いて、イヴが顔を歪める。


「別に家の金なんだからいいじゃん」


悪びれずに言うクレムに三つ編みの少女が肯く。


「まあ、ゲームだしね。金貨10枚とか、普通にプレイしてたら稼ぐの大変だし……」


「おお。アンタ、話がわかるなっ」


「アンタじゃなくてアーシャ。孤児だから苗字は無いよ。よろしくね」


「おうっ。よろしくな。アーシャ」


「よろしくお願いしますっ。アーシャさん……!!」


「わおんっ!!」


イヴの暴走を止められる貴重な人材だ。ぜひ、仲良くしておきたい。

マリーの熱のこもった挨拶を受けて、アーシャは微笑む。


「あたしはイヴ。アーシャとはリア友なの。時間が合う時はいつも一緒に遊んでるよ。あたしも孤児だから苗字はないんだ。よろしくね」


「……よろしくお願いします」


「ううう……っ」


「マリーと真珠、テンション低いな。まあ、適当によろしく」


「イヴ。本当、なにしたのよ。イヴのプレイヤー善行値って下がりまくってるんじゃないの……?」


アーシャは怯えたような表情を浮かべてイヴを見た。イヴは小首を傾げる。


「あたし、プレイヤー善行値とか確認したことない。あんまり興味ないし」


ブルジョア発言!!

あれ? ブルジョワ発言……?

とにかく、お金持ちの発言!!

イヴはきっと、たくさんお小遣いを貰っている子なのだろう。

まさか、成人してるとかは無いよね……?


「今度こそ、名前を教えてくれるよねっ」


満面の笑みを浮かべたイヴにロックオンされて、マリーは観念した。


「私はマリー・エドワーズです。5歳です。おうちは『銀のうさぎ亭』という宿屋兼食堂です。よろしくお願いします。あと、この子は私のテイムモンスターの真珠です。白い毛並みと青い目が綺麗な男の子です」


「わぅうんわう。わうわうわぉん」


「マリーと真珠ね。覚えたよ。よろしくねっ」


いきなり名前を呼び捨て、イヴはにっと笑う。

クレムにも呼び捨てられているけれど……イヴに呼び捨てにされるのはなんとなくモヤる……。


「よろしくお願いします……」


「きゅうん……」


仲良くするのは気がすすまない、と思いながらマリーと真珠はイヴに頭を下げた。

好きじゃない相手にも丁寧な態度で接する。それがオトナの対応というものだ。

マリーの中身は中学一年生だし、真珠はすごく賢い子なのでちゃんとできる。

プレイヤー善行値を下げないためにも、言動には気をつけなければいけない。


「マリーちゃんに真珠くんね。よろしく」


アーシャはきちんと『ちゃん』と『くん』をつけて呼びかけてくれた。嬉しい。


「よろしくお願いしますっ。アーシャさんっ」


「わうわうわぉんっ」


笑顔でアーシャに対応するマリーと真珠を見て、イヴが眉をひそめた。


「ねえ。マリーと真珠の態度、あたしとアーシャで全然違くない……?」


「気のせいだよ。たぶん」


クレムがイヴに気のないフォローをした後に言葉を続ける。


「なあ。よかったらフレンドになってくれないか? それで、時間があるなら一緒にパーティーを組んでほしいんだけど」


クレムの提案を聞いたマリーと真珠は目を剥いた。


***


若葉月19日 朝(2時55分)=5月7日 23:55



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