第百六十五話 マリー・エドワーズと真珠はクレムとパーティーを組む



マリーと真珠、クレムは西門に到着した。

西門には、西の森へ向かうプレイヤーの長い列ができていた。

リアルでは金曜日の夜なので、ゲームをプレイするプレイヤーが多いのだろう。

マリーたちは列の最後尾に並んだ。


「なあ。西の森のどの辺に行くのか教えてくれよ」


クレムに問いかけられたマリーは自分たちがどこに行くのか、周囲に聞こえないようにクレムの耳元に唇を寄せようとしたが、クレムとの身長差に阻まれて諦めた。

内緒話をしなくても、他のプレイヤーたちは自分たちのグループの話に夢中になっているはずだ。

そう思って、マリーは普通の音量の声でクレムに答えることにした。


「西の森の最奥に行きたいの。霧がかかった場所だよ。わかる?」


「あー。ワールドクエストの時にフレンドと行ったな。道はわかるけど、たどり着けるかは微妙。マリーと真珠は戦えんの?」


クレムの問いに、マリーと真珠は硬直した。

固まったマリーと真珠を見て、クレムが口を開く。


「もしかしてマリーと真珠って……弱い?」


「私と真珠、今、種族レベル1です……」


「くぅん……」


「種族レベル1っ!?」


クレムが大音声で叫ぶと、列に並んでいたプレイヤーたちが何事かと振り返る。

クレムは騒がせてしまったことを詫びるために頭を下げ、マリーと真珠は自分たちの低レベルを周囲に晒されて落ち込んだ。


「種族レベル1でよく西の森の最奥まで行けたな」


さっきは大きな声を出して迷惑をかけたので、今度は声をひそめてクレムが言うと、マリーは口を開いた。


「私が西の森の最奥に行った時はセーフティーゾーンになってた時だったの。レイドボスを倒した後で、モンスターが出なくなっていたんだよ」


「ふーん。そんなことがあったのか」


クレムは、レイドボス狼王を倒した後から5月4日の23:59までは西の森にはモンスターが出ないと公式サイトに告知されていたことを知らなかったようだ。


「どうしよう。誰か呼んだ方がいいかな?」


うろたえるマリーに、軽く笑ってクレムは口を開く。


「とりあえずオレたちだけで行ってみようぜ。今、マリーにパーティー申請するから。ステータス」


クレムがステータス画面を操作すると、マリーの目の前に画面が現れた。





プレイヤーNO198047クレム・クレムソンからパーティー申請されました。

受領しますか?


       はい / いいえ





マリーは『はい』をタップした。

新しい画面が現れる。





プレイヤーNO178549マリー・エドワーズはプレイヤーNO198047クレム・クレムソンのパーティーに入りました。

パーティーメンバーの人数で、パーティーメンバーが討伐したモンスターの経験値が等分されます。

パーティーから離脱する場合は『フレンド機能』の『パーティー管理』をご利用ください。





「クレム。私、パーティーに入れたみたい。真珠も一緒にパーティーに入ったってことでいいんだよね?」


「今、パーティーリストを見てみる。……うん。ちゃんと真珠も入ってるよ」


「よかった。真珠も一緒だよ。戦闘、頑張ろうね」


「わんっ」


マリーと真珠が気合を入れていると、クレムが首を傾げた。


「真珠はフツーに戦えそうだけどさ、マリーは武器とか持ってんの?」


「持ってない……。採取ナイフしか持ってない……」


「わうー。きゅうん……」


マリーは以前、武器を買うために武器屋に行こうとしたけれどたどり着けなかったのだ。


「やっぱり誰か誘う? 今夜は金曜日だし、ログインしているプレイヤーもいっぱいいるからフレンドに連絡したらひとりくらいは来てくれるかも……」


「あれえ? また会ったね!!」


弱気になって言い募るマリーの言葉を遮って、少女が話しかけてきた。

マリーは話しかけてきた少女の顔を見て、思わず顔をしかめる。

真珠が警戒してマリーの前に立ち、唸り出す。

それはマリーが苦手としているプレイヤーのイヴだった。


***


若葉月19日 朝(2時47分)=5月7日 23:47



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