第百五十四話 マリー・エドワーズは新たなワールドクエスト『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』を創造する



ブーツをひとりで履き終えたマリーは足元にいた真珠を呼んだ。

マリーの椅子の側にいた真珠はマリーの膝の上に乗る。

レーン卿は彼の母親に視線を向けて口を開いた。


「母上。マリーさんに会えたのですから、もう用は済んだでしょう? 退出なさっては?」


「まあ。フレデリック。正式な自己紹介すらしていないのに、わたくしを追い出すというの?」


母親の言葉にため息を吐き、レーン卿はマリーと真珠に視線を向けた。


「マリーさん。真珠くん。こちらにいるのは僕の母です。世間知らずなところがありますが、ご容赦ください」


「はじめまして。レイチェル・レーンよ。夫は領主である兄の筆頭護衛騎士なの。息子と仲良くしてくれて嬉しいわ」


レイチェルの微笑みに見とれながら、マリーは口を開いた。


「私はマリー・エドワーズです。5歳です。おうちは『銀のうさぎ亭』という宿屋兼食堂です。よろしくお願いします。あと、抱っこしているのは私のテイムモンスターの真珠です。白い毛並みと青い目が綺麗な男の子です」


「わぅうんわう。わうわうわぉん」


「マリーちゃんと真珠ちゃん。きちんと挨拶ができて偉いわね」


レイチェルに褒められたマリーと真珠は照れながら、嬉しくてお互いの視線を交わす。


「フレデリック。わたくしのために椅子を用意してちょうだい」


「このテーブルには家庭教師と子どもの分の椅子しか用意されていません」


「淑女を立たせたままなんて、そんな風だからあなた、今でも独身なのよ。ずるずると婚約期間を引き延ばすのは良くないわ。もう21歳なのだから、きちんとしなければいけないのに……」


「あのっ。私の椅子を使ってくださいっ」


「わんっ」


マリーは真珠を抱っこしたまま椅子を下りた。


「マリーさんの椅子は子ども用のものですから、母が座るには小さいですね」


「ありがとう。マリーちゃん。ああ。マリーちゃんのような可愛い孫が欲しいわ……」


ため息を吐く母親を無視して、レーン卿は紅茶を飲んだ。

レイチェルを立たせたまま、自分と真珠だけが椅子に座ることもためらわれて、マリーは真珠を抱っこしたまま立ち尽くす。

それにしても、レイチェルのような美女の口から『孫』というワードが出ると、ものすごく違和感がある。


「あの、えっと、レーン卿は……フレデリック様は綺麗で素敵でお金持ちで優秀な鑑定師ギルドの副ギルドマスターだから恋人になりたい女の人も結婚したい女の人もたくさんいると思うんですっ」


主に乙女ゲームを求める女性プレイヤーがレーン卿に群がるはず!!

プレイヤーとNPCの間に孫ができるかどうかはわからないけれど……。

マリーの言葉にレイチェルは目を輝かせる。


「まあ。マリーちゃん。息子を高く評価してくれて嬉しいわ」


「だから、フレデリック様を素敵だと思う女の人を招待してパーティーを開くとかどうでしょうか!?」


そしてそのパーティーの情報を情報屋から女性プレイヤーに売りまくってもらって儲ける!!

借金返済と乙女ゲームイベントの両立ができればとても嬉しい。


「それは素敵な思いつきだわ。兄に相談してみるわね」


「本人の意向を無視して話を進めないでください」


レーン卿が眉をひそめて言ったその時、サポートAIの声が響いた。


「マリー・エドワーズがワールドクエストの創造に成功しました。ワールドクエスト『鑑定師ギルドの副ギルドマスターの恋人選定パーティー』が発生しました。このクエストには受注条件があります。クエストを受注できるのは主人公の性別が女性または『オトメの心』スキル所持者のみです。クエスト受注の操作が必要となります。

プレイヤーは無理のない範囲でご参加ください。


詳しくはステータス画面の『クエスト確認』をご確認いただくか、転送の間でサポートAIにお尋ねください。

尚、ワールドクエストの創造に成功したマリー・エドワーズのプレイヤー善行値が大幅に上昇します」


新しいワールドクエスト!? 

マリーは突然のアナウンスに混乱する。

ワールドクエストの創造ってどういうこと……っ!?

混乱の最中にいるマリーの耳に、サポートAIのアナウンスが聞こえる。


「プレイヤーの身体に強い揺れを感知しました。強制ログアウトを実行します」


その言葉を聞いた直後、マリーの意識は暗転した。


***


若葉月18日 夜(5時10分)=5月7日 20:10



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