第百四十七話 マリー・エドワーズは鑑定師ギルドの副ギルドマスターにガラス玉の鑑定をしてもらう



マリーが手渡したガラス玉をレーン卿が鑑定をしている間、マリーは部屋の中を眺める。

マリーが寝ていた天蓋付きのベッドは小さい。


小さいと言っても、マリーがいつも寝ているベッドよりは大きいのだけれど、でも、大人が眠る天蓋付きのベッドにしては小さい。

子ども用のベッドだろうか。ここは、子ども部屋……?


家具は優しい色彩で統一され、本棚は子どもでも手が届く高さに作られていて、角が丸い。

レーン卿が座っていたロッキングチェアに置かれているクッションの柄はファンタジー小説に出てくるようなトランプの兵隊だ。

マリーが部屋を楽しく眺めていると、ガラス玉の鑑定を終えたレーン卿が口を開いた。


「鑑定が終了しました。結果を口頭でお伝えしても?」


「はいっ。お願いします。頑張って覚えます……っ」


祖母が、ウェインから貰ったレシピが書かれた紙を見て、錬金魔道具で高価なものではないかと言っていたことを思い出したマリーは、高価な紙に鑑定結果を書いてもらうわけにはいかないと考えた。


「今は口頭でお伝えしますが、後程、鑑定師ギルドで鑑定結果を記したものを作成して『銀のうさぎ亭』にお届けします」


「それは無料で……?」


「無料です」


おそるおそる尋ねるマリーに苦笑して答えたレーン卿は首を傾げた。


「マリーさんは薬師ギルドで会った時から節約を心がけている様子でしたが、僕への依頼料を用意したと言っていましたね。もし宜しければ、事情を聞かせていただけませんか?」


「えっと……私は頼まれたんです。お金は預かったものです」


「頼まれた? ご家族にですか?」


「ごめんなさい。レーン卿に話していいか、私は判断できないです。あの、ガラス玉の鑑定結果を聞いてもいいですか?」


マリーの様子を見たレーン卿は事情を聞くことを諦め、ガラス玉の鑑定結果を伝えるために口を開く。


「このガラス玉の鑑定結果ですが、ランクAの大変価値があるものです。このガラス玉は一つにつき、一度だけ魔法を吸い取ることができます」


「だから、魔法が吸い込まれたんだ……」


マリーは鑑定結果を聞いて思わず呟く。


「マリーさんはこのガラス玉が魔法を吸い取ることに気がついていたのですか?」


マリーの呟きを聞き咎めて尋ねるレーン卿に肯き、マリーは『ライト』の光を閉じ込めたガラス玉をアイテムボックスから取り出した。

真珠と一緒に遊ぶために、一つだけ手元に残しておいたものだ。


「これは『ライト』の光を閉じ込めたガラス玉です」


マリーはそう言いながら、手のひらに光を放つガラス玉を乗せてレーン卿に見せた。


「興味深いですね。鑑定させていただいても? これは僕の個人的な興味からの鑑定なので、代金は頂きません」


「あのっ。レーン卿がガラス玉を鑑定して、どうして『一つにつき、一度だけ魔法を吸い取ることができる』と言ったのか教えてもらえたら、光るガラス玉を無料で鑑定していただいて大丈夫ですっ」


マリーは、情報屋の鑑定結果では表示されなかった情報がレーン卿の鑑定で表示された理由を知りたかった。

だが、レーン卿にはマリーの質問は不可解なものだったようで、彼は眉を顰める。


「どうしてと問われましても、鑑定結果にそう表示されたからとしか申せません」


『鑑定結果にそう表示された』とレーン卿は言う。

それは情報屋が鑑定した情報とレーン卿が鑑定した情報の内容が異なるということだ。

マリーは自分の気づきに驚き、動揺しながらも、なんとか平静を保とうとして曖昧に微笑む。


「変なことを聞いちゃってごめんなさい。どうぞ。光るガラス玉を鑑定してください」


「ありがとうございます」


レーン卿はマリーに鑑定を終えたガラス玉を返し、光るガラス玉を手に取った。

マリーはレーン卿から受け取ったガラス玉をアイテムボックスにしまう。

そして、おとなしくお座りをしている真珠の頭を撫でた。

マリーと真珠が遊んでいると、光るガラス玉の鑑定を終えたレーン卿がマリーたちに声をかける。


「鑑定が終了しました。光るガラス玉をお返ししますね」


レーン卿はマリーに鑑定を終えた光るガラス玉を返した。

マリーはレーン卿から受け取った光るガラス玉をアイテムボックスにしまった。


***


若葉月18日 昼(3時47分)=5月7日 18:47

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