第百四十二話 高橋悠里は星ヶ浦銀行が星ヶ浦アルカディアオンライン銀行になることを知る
悠里が母親と共にダイニングに行くと、祖母がガラスの器にコーヒーゼリーを盛り付けて生クリームでデコレーションしている最中だった。
「わあ。おいしそう……っ」
「たぶんおいしくできていると思うわ。どうぞ」
生クリームで飾り付けたコーヒーゼリーが入ったガラスの器と銀のスプーンを悠里の席に置いて、祖母が微笑む。
悠里は自分の席に座って口を開いた。
「いただきますっ」
「召し上がれ」
祖母は嬉しそうに生クリームが乗ったコーヒーゼリーを頬張る悠里を見つめた後、母親と自分の分のコーヒーゼリーをガラスの器に乗せて生クリームでデコレーションする。
「あ。そうだ。行って来たわよ。銀行」
母親は椅子に座ろうとした時に悠里の通帳に記帳しに銀行に行ったことを思い出した様子で席を立ち、いつも使っているハンドバッグから悠里の通帳とリーフレットを取り出した。
悠里はあっという間にコーヒーゼリーを食べ終えて、母親に視線を向ける。
「お金、ちゃんと入金されてた?」
「されていたわよ。合計1600円」
「すごい!! 見せて……っ」
母親は悠里に通帳とリーフレットを手渡した。
「このリーフレット、なに?」
「今日、銀行に行ったらもらったのよ。来月から星ヶ浦銀行の名前が変わるんだって」
「ふうん」
悠里がリーフレットに見ると『6月1日から、星ヶ浦銀行は星ヶ浦アルカディアオンライン銀行に生まれ変わります』という太文字が目に飛び込んできた。
「えっ!? なんで『アルカディアオンライン』の名前があるの……っ!?」
驚いて尋ねる悠里に、母親は肩を竦めた。
「私が知るわけないでしょう。6月1日になったら、今まで使っていた通帳とカード、身分証明書を見せれば『星ヶ浦アルカディアオンライン銀行』の通帳とカードをくれるって。古い通帳は大切に保管して、新しい通帳に金額が正しく記載されているか確認してくださいって言われたわ」
「そうなんだ……。私が『アルカディアオンライン』に登録している口座ってどうなるんだろう?」
「ゲームのサポートセンターで聞いてみたら? お祖母ちゃん。いただきます」
母親はそう言って、祖母が生クリームを盛り付けてくれたコーヒーゼリーを食べ始めた。
サポートといえばサポートAI。
悠里は『アルカディアオンライン』にログインして、転送の間でサポートAIに星ヶ浦アルカディアオンライン銀行について尋ねてみようと思いながら席を立つ。
「ごちそうさまでした。お祖母ちゃん。すごくおいしかったよ」
「喜んでもらえてよかったわ」
「ゲームばっかりやっちゃダメよ。中間テストが近いんだから、ちゃんと勉強もするのよ」
「はあい」
母親の小言に気のない返事をして、空になったコーヒーゼリーの器とスプーンを手に、悠里はキッチンへと向かった。
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