第百四十三話 5月7日/おやつを食べた後にログイン
悠里はキッチンでガラスの器を洗ってから、トイレを済ませてダイニングのテーブルに置きっぱなしにしていた通帳を持って自室に向かった。
自室に入り、通帳を引き出しにしまった後、ベッドに置きっぱなしにしていたゲーム機とヘッドギアの電源を入れる。
そして悠里はヘッドギアをつけた後、ベッドに横になった。
目を閉じてサポートAIのアナウンスを待つ。
「『アルカディアオンライン』を開始します」
サポートAIの声がした直後、悠里の意識は暗転した。
気がつくと、悠里は転送の間にいた。無事にログインできたようだ。
「プレイヤーの意識の定着を確認しました。『アルカディアオンライン』転送の間へようこそ。プレイヤーNO178549。高橋悠里様」
今日はプレイヤーレベルの上昇はなかったようだ。
悠里が情報屋に売った情報の広がりが、一段落したのかもしれない。
「あの、今日も700円を変換できますか?」
「可能です。変換しますか?」
「しますっ」
「作業中……。作業終了。高橋悠里様の登録口座に700円を入金しました。後程、お確かめください。高橋悠里様の現在の所持金は4265501リズです」
「ありがとうございます!!」
ゲーム内所持金が400万リズを超えたが、それは情報屋から貰った前金の金貨20枚が含まれているからだ。
1000万リズの借金を返すために、頑張ってお金を稼ごう。
悠里は鏡の中に入ろうとして、足を止めた。
「そうだ。サポートAIさんは『星ヶ浦アルカディアオンライン銀行』のことをご存知ですか?」
「知っています」
「えっと、私が『アルカディアオンライン』に登録した銀行口座って『星ヶ浦銀行』の口座なんですけど『星ヶ浦アルカディアオンライン銀行』に変わったら登録し直さなくちゃいけないんですか?」
「『星ヶ浦銀行』の口座を登録しているプレイヤーは6月1日AM9:00より『星ヶ浦アルカディアオンライン銀行』の口座に自動的に移行します」
「そうなんだ。じゃあ、私は何もしなくても口座を使い続けられるっていうことですよね?」
「左様です」
「よかった。サポートAIさん。教えてくれてありがとうございます。じゃあ私、行きますね」
「それでは、素敵なゲームライフをお送りください」
サポートAIの声に送られ、悠里は鏡の中に入っていった。
マリーはベッドの上で目覚めた。
隣に真珠もいる。ここは、侍女長補佐の部屋のようだ。
部屋の中にはマリーと真珠以外は誰もいないが寝る前に消せなかった明かりは今は消えている。
カーテンの隙間からは光がこぼれているので、朝か昼かもしれない。
「わうー。わううぅ」
真珠がマリーにすり寄り、鳴いた。
「真珠。おはよう」
マリーは真珠を撫でてぎゅっと抱きしめる。
「起きようか」
「わんっ」
真珠は身軽にベッドから飛び下り、マリーは寝る前にベッドの隅に置いたワンピースに着替えようとした。
だが、畳んでおいたワンピースがない。
「なんでワンピースがないの……?」
もしかして部屋の明かりを消してくれた人が、気を利かせてワンピースをクローゼットにしまってくれたのかもしれない。
「どうしよう。クローゼットの扉に手が届かないのに……」
「くぅん……」
マリーと真珠が途方に暮れていると、小さなノックの音がして扉が開いた。
黒髪で黒い目のメイド服を着た少女が、マリーと真珠を見て目を丸くする。
それから、彼女は慌ててマリーと真珠に頭を下げた。
「勝手に入室して、失礼しましたっ。起きていらっしゃったのですね」
「えっと、おはようございます」
「わうわうわううわう」
「おはようございます。わたしは侍女長からマリーさんと真珠さんの様子を見てくるよう命じられました。よろしければ、マリーさんの着替えのお手伝いをさせていただきます」
「私、ひとりで着替えられますっ。あ、でも、クローゼットは開けられないです……」
「申し訳ありませんっ。ベッドの隅に畳んであったので私がクローゼットにしまいました。手が届かなくてクローゼットを使わなかったんですね。もしかして明かりのスイッチにも手が届きませんでしたか?」
「はい。明かりをつけっぱなしにしてしまってごめんなさい……」
「くぅん……」
「いいえ。いいんですよ。気になさらないでください。マリーさんと真珠さんはお客様ですから」
彼女はそう言ってクローゼットからマリーのワンピースを取り出してくれた。
「おねえさん。あの、聞いてもいいですか?」
「私の名前はナナです。どうぞなんでも聞いてください」
「えっと、今日はなんにちですか?」
「本日は若葉月18日の朝です。私は時計を持っていないので、詳しい時間はわかりません。申し訳ないです」
「若葉月18日……」
固有クエスト『権利書を買い戻せ!!』の期限は若葉月30日まで。
本当に時間がない……っ。
マリーは夜着を脱いでベッドに置き、ナナからワンピースを受け取って着替える。
ナナはマリーが脱いだ夜着を手早く畳んで、マリーと真珠に視線を向けた。
「レーン卿はただいま、朝食を召し上がっておられます。マリーさんと真珠さんが目覚めていたら同席していただくようにとのことなのですが、どうなさいますか?」
「同席しますっ!!」
「わうんっ!!」
「かしこまりました。それでは食堂にご案内しますね」
ナナはマリーと真珠のために扉を開けて、微笑んだ。
***
高橋悠里のプレイヤーレベルは7(変更なし)
高橋悠里の5月7日の換金額 700円
高橋悠里の貯金額 1600円→2300円
若葉月18日 朝(2時41分)=5月7日 17:41
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