第百三十八話 マリー・エドワーズは侍女長に質問をする



マリーがレーン卿に鑑定を依頼しようとしているのは錬金を失敗した時にできるガラス玉だ。

錬金素材にはならないゴミアイテムとして認識されている。

ガラス玉をレーン卿に鑑定してもらいたいなんて、イタズラ目的だと思われたらどうしよう……。


「わたくしには見せられない物ですか?」


侍女長が眉をひそめて言う。マリーは観念してアイテムボックスからガラス玉を取り出し、テーブルの上に置いた。

侍女長はマリーの左腕の近くに突然現れたガラス玉に目を見張ったが、すぐに平静を取り戻した。そして、テーブルの上のガラス玉に視線を向け、口を開く。


「これは?」


「ガラス玉です」


「これをレーン卿に鑑定させようというのですか?」


「はい」


「レーン卿への鑑定依頼の料金は子どものお小遣いで払える金額ではありませんよ」


「わかっています。お金はちゃんと持ってきました」


マリーはそう言って、口を真一文字に引き結ぶ。

真珠はマリーと侍女長を見つめて心配そうに鳴いた。

一歩も引かない様子のマリーを見つめて嘆息した侍女長はテーブルの上のガラス玉を手に取り、マリーに差し出す。

マリーはガラス玉を受け取ってアイテムボックスにしまった。


「マリーさんの目的はわかりました。レーン卿には私からお伝えして、お手すきの時にこちらに来ていただけるようにお願いします」


「ありがとうございます……っ」


「わぅわううわううわ……っ」


「お腹は空いていますか? 軽食なら用意できますが」


「いいえ。大丈夫ですっ」


「わうんっ」


マリーと真珠は首を横に振る。

押しかけて来て迷惑を掛けているのにこれ以上、侍女長の手を煩わせたくない。


「そうですか。それでは今夜、あなたたちが泊まる部屋に案内します」


侍女長はそう言って椅子から立ち上がる。

その所作は流れるように美しい。マリーは思わず口を開いた。


「あのっ。ブロックウェル様はどうしてそんなに綺麗に動けるんですか……っ?」


「わたくしは『礼儀作法』と『淑女の嗜み』というスキルを所持してレベルを上げています。そのために動きが美しく見えるのでしょう」


マリーは『礼儀作法』と『淑女の嗜み』というスキルを心に刻んだ。

あとで検索してみよう。


「ブロックウェル様は自分のスキルがわかるんですね。どうしてスキルがわかるんですか?」


NPCはユニークスキル『ステータス閲覧』を持っていないはずだ。

不思議に思ってマリーが尋ねると、侍女長は苦笑した。


「マリーさんは好奇心旺盛な性格のようですね」


「いろいろ聞いてしまってすみません……」


「好奇心をもつのは良いことです。レーン卿とも気が合うかもしれないですね」


「ブロックウェル様はレーン卿と親しいんですかっ!?」


思わぬところからレーン卿の情報を得られそうだと思ったマリーは前のめりに尋ねる。


「マリーさんはたくさん知りたいことがあるようですね。ですが、わたくしの仕事は、口が軽くてはつとまらないのです」


正論!! 悠里は昔のドラマで見た、口が軽い家政婦とは大違いだと思った。

真珠はマリーの膝の上から飛び下り、マリーは椅子から飛び下りた。

そしてマリーは椅子をきちんと元の位置に戻す。

侍女長はそんなマリーと真珠を微笑ましく見つめた。


***


若葉月14日 真夜中(6時59分)=5月6日 21:59



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る