第百三十六話 マリー・エドワーズと真珠は門前払いを食らって大泣きする
マリーはアイテムボックスから『港町アヴィラ領主の感謝状』を取り出して、真珠と共に領主館に入ろうとした。だが、入り口に立つ白地に赤いラインが入った制服を着た男たち二人に制止される。
黒髪の男はマリーと視線を合わせるために身を屈めて口を開いた。
「お嬢ちゃん。こんな夜更けにどうしたの?」
「領主館に用事があるのなら、保護者と共に翌日に出直すといい。さっき一緒にいた大男はどうした?」
領主館の入り口を守っている白地に赤いラインが入った制服を着た男たち二人は口々にマリーに話しかける。
「私、ちゃんと『港町アヴィラ領主の感謝状』を持ってます。これがあればいつでも領主館に入れるんですよね?」
マリーは手にしている『港町アヴィラ領主の感謝状』を掲げた。
顎鬚を生やした男はマリーが手にしている感謝状の内容を確認した後、マリーに返し、困り果てて隣の同僚に視線を向ける。
「この子が持っているのは領主様がこの前のスタンピードの時に、街の防衛に貢献した聖人に贈った感謝状のようだ」
「そうですっ!! ちゃんと貰ったんだもんっ!! 私、領主館にある鑑定師ギルドに用事があるんです……!!」
「わんわんっ!!」
「お嬢ちゃん。鑑定師ギルドは昼から夕方にかけてあいているんだ。今は真夜中だから、閉まっているんだよ」
「でもこの感謝状には『平時でも港町アヴィラの領主館に出入りすることが出来る』って書いてあるもんっ」
「だけどお嬢ちゃん。真夜中には人は眠るものなんだよ……」
「お嬢ちゃんも家に帰って眠らないと。家族が心配している」
「だって、だって、私、せっかくここまで来たのに……っ」
マリーは真珠を抱っこして領主館を目指し歩き続けた時間を思い返して涙を浮かべる。
バージルに出会って助けてもらえなければ、今もマリーは真珠と道端に蹲っていたかもしれない。
「うう、ううう……っ」
マリーの目から大粒の涙がこぼれる。
やっとここまで来たのに帰れだなんて!!
「うわあああああああああああああん……っ!!」
マリーは悲しい気持ちをこらえきれず、大泣きし始めた。
「ぎゃうううううううううううううん……っ!!」
真珠もマリーにつられて泣き始める。真珠の青い目から涙がぼろぼろとこぼれた。
大泣きする幼女と子犬に困り果てた男たちは頭を抱える。
顎鬚を生やした男が同僚の黒髪の男に視線を向けて口を開いた。
「館の侍女長に事情を説明してきてくれ。こんな真夜中に子どもと子犬を外で泣かせ続けるわけにはいかない」
「わかった」
黒髪の男は館の中に姿を消し、一人残った顎鬚を生やした男は泣き続ける幼女と子犬をなだめようと奮闘した。
***
若葉月14日 真夜中(6時32分)=5月6日 21:32
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