第百三十五話 マリー・エドワーズと真珠はバージルの筋肉を見て喜ぶ
バージルに抱っこされたマリーと真珠は夜が明ける前に領主館にたどり着いた。
バージルと雑談をしながらの道行は楽しかった。マリーと真珠が予想したよりもバージルの歩行速度が速かったのは嬉しい誤算だ。
バージルはマリーと真珠を地面に下ろす。
「バージルさん。抱っこして連れて来てくれてありがとうございましたっ」
「わぅわううわううわうわっ」
マリーと真珠はバージルに頭を下げて言う。
バージルは笑って口を開いた。
「礼なんかいいよ。俺たち、フレンドだろ? それにマリーからプレイヤー善行値を上げる方法を教えてもらったしな。情報屋に会えるように紹介を頼むぜ」
「はいっ」
「今度、時間が合えばパーティーを組んでモンスターを狩りに行こうぜ」
「私、まだ種族レベル1なんですけどいいですか……?」
「くぅん……?」
「そうなのか。問題ないぜ。俺のSTR値と筋肉でモンスターを蹴散らしてやるよ」
バージルは右腕で力こぶを作ってマリーと真珠に見せた。
領主館は夜でも明るいので、バージルの筋肉はしっかりと見える。
マリーは拍手した。真珠は右の前足を地面にトントンとリズミカルに下ろして拍手をしている。
領主館の入り口を守っている白地に赤いラインが入った制服を着た男たち二人は、筋肉を披露しているバージルとそれを見て大喜びしているマリーと真珠を見て怪訝な顔をする。
だが、現状では特に害が無いものと判断してその場を動くことはなかった。
「俺が育てた自慢の筋肉を見て喜んでもらえて嬉しいぜ」
バージルの言葉にマリーと真珠は首を傾げる。
「このゲームってSTR値を上げるとキャラグラフィックが変わるんですか? 私のフレンドはSTR値が高くても華奢な感じでしたけど……」
マリーはウェインのグラフィックを思い浮かべながら問いかける。
「グラフィックの筋肉を増やすスキルがあんだよ。『筋肉増量』ってスキル」
「そんなのあるのっ!?」
「わううっ!?」
「おうよ!! 『アルカディアオンライン』のゲーム制作スタッフはわかってるって思ったね。無課金の主人公に選べるキャラは、どいつもこいつもなよっとしたひ弱な見た目でさ。俺の好みじゃなかったけど、一攫千金のためにはひ弱グラフィックの主人公でプレイするしかないって我慢してたんだ。その愚痴をサポートAIにこぼしたら『筋肉増量』スキルのことを教えてくれた。サポートAI、便利だよなっ」
「サポートAIさんはプレイヤーをサポートするのがお仕事ですからね。頼りになります」
「くぅん……」
自分だけサポートAIに会ったことがない真珠は俯いた。
マリーとバージルは交互に真珠を撫でて彼を慰める。
「じゃあ、そろそろ行くよ。これからひと狩り行ってくる」
「本当にありがとうございました。偶然、バージルさんに会えてよかったです」
笑顔で言うマリーにバージルは鼻の頭を掻いて、気まずそうに口を開く。
「あー。なんだ。その、偶然じゃないんだ」
「え……?」
「教会でマリーを見かけて、ふらついた足取りだからちょっと心配になって見てたんだ。マリーがやる気に満ちた顔をしてたからその時は声をかけなかったけど」
「私のことを心配してついてきてくれていたんですか? バージルさん、優しい……っ」
「うまくやればフレンドになってくれるかなっていう下心だよっ。じゃあ、俺は行くからっ」
バージルはぶっきらぼうに言ってマリーと真珠に手を振り、去っていく。
マリーはバージルの背中を見つめて手を振り、真珠は感謝を込めて吠えた。
***
若葉月14日 真夜中(6時25分)=5月6日 21:25
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます