第百二十七話 5月6日/帰宅後にログイン



要たちと一緒に牧高食堂に行った悠里は要に牧高食堂のおすすめメニューを伝えて自分も『ポテサラコロッケ』を3個と『じゃがいもコロッケ』2個買った。

要は『牧高食堂のオムライス』を2人前買い、明はハムカツサンドを4つ買っていた。

晴菜と颯太は何も買わず、そして、それぞれに分かれて家路につく。


「要は駅前のタワーマンションに住んでるんだぜ。俺の家はその近く。日照権が侵害されてる」


「ごめん」


明の言葉を聞いた要が謝る。明はそんな要を見て笑い声をあげ、口を開いた。


「嘘だよ。うちは大丈夫。影になった家もあるみたいだけど、ちゃんと補償金を貰ったらしいって母ちゃんが言ってた」


悠里は小学生の時、建設途中のタワーマンションを見て、自分とはかかわりが無いようなお金持ちが住むところだなあと思っていたのだが、憧れの先輩の住居だったなんて……!!


「じゃあ、高橋さん。松本さん。相原、また明日」


「お疲れさまでしたっ」


要と明を見送って、悠里は息を吐いた。


「びっくりした。藤ヶ谷先輩が駅前のタワーマンションに住んでたなんて……っ」


そういえば、要の母親が乗っていた赤い車は高そうだった。

悠里は車に興味がなくて詳しくないから、車の名前はわからないけれど……。


「藤ヶ谷先輩は俺らと住む世界が違うのかもな」


「違わないでしょ。普通に同じ中学に通う先輩なんだから。帰ろう。悠里」


颯太の言葉をはねつけるように言って、晴菜は悠里を促し、歩き出す。

悠里が晴菜の後を追うと、颯太もついてきた。


「相原くんの家もこっちの方向なの?」


悠里が問い掛けると颯太は首を横に振った。


「いや、そうじゃないけど。高橋と松本の二人だけじゃ心配だから送る」


「別にいいわよ。いつも、あたしたち二人で帰ってるんだから」


「まあまあ。はるちゃん。相原くんが送ってくれるって言うんだから送ってもらおうよ」


颯太はきっと、晴菜と一緒にいたいと思っている。

悠里がいなければ二人きりになれるのだが、ここで悠里がひとりで帰るというわけにはいかないので我慢してもらおう。


悠里と晴菜は颯太に送られて家に帰り、悠里は颯太の恋のアシストを頑張った自分を心の中で褒めた。

さあ。家に帰ったらゲームの時間だ……!!


悠里は『ポテサラコロッケ』を3個と『じゃがいもコロッケ』2個が入った紙袋をダイニングのテーブルの上に置き、洗面所で手洗いとうがいをして、トイレに入り自室へと向かう。


自室に入って通学鞄を机の上に置き、制服から部屋着に着替えた悠里は充電していたゲーム機とヘッドギアを充電器から外してコードでつなぐ。

ゲーム機とヘッドギアの電源を入れ、ヘッドギアをつけた後、ベッドに横になり、目を閉じた。


「『アルカディアオンライン』を開始します」


サポートAIの声がした直後、悠里の意識は暗転した。

気がつくと、悠里は転送の間にいた。


「プレイヤーの意識の定着を確認しました。『アルカディアオンライン』転送の間へようこそ。プレイヤーNO178549。高橋悠里様。高橋悠里様のプレイヤーレベルが7になりましたのでお知らせ致します。これに伴い、高橋悠里様は一日あたりゲーム内通貨700リズをリアルマネーの700円に変換することが可能になりました」


「すごい!! じゃあ、今日は700円を変換できるっていうことですよね?」


「左様です。変換しますか?」


「しますっ」


「作業中……。作業終了。高橋悠里様の登録口座に700円を入金しました。後程、お確かめください。高橋悠里様の現在の所持金は2262201リズです」


「ありがとうございます!!」


「プレイヤーNO198047クレム・クレムソンとプレイヤーNO8029デヴィット・ミラーからメッセージが届いています」


「教えてくれてありがとうございます。メッセージを確認しますね。ステータス」


悠里はステータス画面を表示させて『フレンド機能』をタップした。

メッセージを確認してから、情報屋とクレムに迷惑をかけたお詫びのメッセージを送らなければいけない。





メッセージ受信箱【NEW】/メッセージ送信箱/フレンドリスト【NEW】





悠里は【NEW】がついている『メッセージ受信箱』をタップした。

新たな画面が現れる。

まずは情報屋のメッセージを確認しよう。





マリーさんと真珠くんのことはクレムくんと一緒に『銀のうさぎ亭』に送り届けました。

マリーさんが次にログインした時には『銀のうさぎ亭』で目覚めると思います。

マリーさんへの依頼の件で話がしたいので、お手すきの時にご連絡ください。





「情報屋さんとクレムが私と真珠の身体を『銀のうさぎ亭』に運んでくれたんだ。ちゃんとお礼を言わないと……」


悠里は情報屋に迷惑をかけたお詫びとマリーと真珠を『銀のうさぎ亭』に運んでくれたお礼、それから今、ログインしたから晩ご飯の時間までなら情報屋に会えると記載して送信した。

次はクレムからのメッセージを確認しよう。





マリーと真珠のことは情報屋と一緒に『銀のうさぎ亭』に送り届けたからな。

あと情報屋にビー玉を売る契約をして前払いで金貨9枚貰ったから、オヤジと仲直りしてくる。

ガラスの欠片を拾える場所を教える約束、忘れるなよ!!





「すごい……!! 私がログアウトしている間に固有クエストが進行してる!! でも情報屋さん、金貨9枚分もビー玉を買ってなにをするんだろう?」


考えても答えは出ない。まずはクレムに返信しよう。

悠里はクレムに迷惑をかけたお詫びとマリーと真珠を『銀のうさぎ亭』に運んでくれたお礼、そして約束は忘れていないと記載して送信した。

ここでやりたいことは全てやり終えた。そろそろゲームを始めよう。


「サポートAIさん。私、もう行きますね」


「それでは、素敵なゲームライフをお送りください」


サポートAIの声に送られ、悠里は鏡の中に入っていった。


***


高橋悠里のプレイヤーレベルが7に上昇。


高橋悠里の5月6日の換金額 700円


高橋悠里の貯金額 900円→1600円

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る