第百二十一話 高橋悠里は晩ご飯を食べ終えて勉強する



マリーが安請け合いした依頼内容を聞く覚悟を決めて情報屋の目を真っ直ぐに見つめたその時、サポートAIの声が響く。


「プレイヤーの身体に強い揺れを感知しました。強制ログアウトを実行します」


その言葉を聞いた直後、マリーの意識は暗転した。


悠里が目を開けると、母親の顔が目の前にあった。


「帰ってきてからずっとゲームばっかりしてっ。もう晩ご飯の時間よ」


「うわー。あのタイミングで強制ログアウトとか……っ」


情報屋とクレムに迷惑をかけてしまった。

悠里は頭を抱えたくなったが、今はヘッドギアをつけているので自重する。


「晩ご飯のメニューは天津飯とマカロニサラダ、きんぴらごぼうよ。お祖父ちゃんのリクエストでお祖母ちゃんが作ったの。食べるだけの晩ご飯なんて本当に嬉しい。毎日こうだったらいいのになあ……」


母親が夢見るように言っている言葉を聞き流しながら、悠里は横たわっていたベッドから起き上がり、ヘッドギアを外して電源を切る。

それからゲーム機の電源を切った。

ヘッドギアとゲームをつなぐコードはそのままにしておく。


「もう今日はゲームで遊んだらダメよ。片づけなさい。晩ご飯を食べ終わったら勉強するのよ。中間テストで平均点以下だったら補習受けなくちゃいけなくなるかもしれないわよ」


「ゲーム機とヘッドギアは充電するから出しっぱなしにしてるの」


「じゃあコードは外しなさいよ」


目ざとい母親の追求から逃れるために、悠里は早足で自室を出てダイニングに向かった。


祖母が作ってくれた天津飯とマカロニサラダ、きんぴらごぼうをおいしく食べ終え、デザートに出されたオレンジを完食した悠里はキッチンで自分の分の食器を洗った後、洗面所に向かった。


洗面所で歯を磨いた後、自室に戻る。

少しだけでもゲームをプレイするか迷ったけれど、悠里がゲームをしていることが母親にバレたら面倒なことになりそうだ。

悠里はゲームのプレイを諦めた。ゲーム機とヘッドギアを充電しよう。

ゲーム機とヘッドギアを充電器にセットして、悠里はため息を吐く。


「あーあ。迷惑をかけたのが圭くんだったら、リアルでメッセージを送って謝れたのになあ……」


情報屋もクレムもゲームの中だけのフレンドだ。リアルの連絡先はわからない。


「圭くんは情報屋さんのリアルでのアドレスとか知ってたりするのかなあ。聞いてみよう」


悠里はスマホを手にして圭へのメッセージを書き込む。





圭くんは情報屋さんのリアルの連絡先とか知ってる?

私、情報屋さんの『ルーム』で強制ログアウトしちゃって迷惑をかけたんだけど、今日はもうゲームやっちゃダメってお母さんに言われちゃったの。

もし謝れるなら謝りたいなあと思って……。

もし、圭くんが情報屋さんのリアルの連絡先とか知ってるのであれば『マリーが謝っていた』と伝えてもらえたらすごく助かる!!

情報屋さんのリアルの連絡先を知らない場合はこのメッセージはスルーしてね。





悠里は自分が書いた文章を読み直して小さく肯き、送信した。


「……勉強しよう」


中間テストで悪い点数をとってしまって、補習になったら本当に嫌だ。

特に、補習を受けなければいけないくらいダメな子だと藤ヶ谷先輩に思われるのは嫌だ。悲しすぎる。

悠里が机に向かって数学の教科書とノートを開いたその時、スマホが鳴った。

圭から返信が来たようだ。

悠里はメッセージを確認した。





情報屋のリアルの連絡先は知らない。

アイツ、穏やかな性格だし『強制ログアウト』はプレイヤーあるあるだから気にしなくていいと思う。

ウェインがマリーと真珠を迎えに行けたらよかったんだけど、今日は6時間ログインしちゃったからもうプレイできないんだ。





「『強制ログアウト』はプレイヤーあるある。そっか。そうだよね」


悠里は圭に『圭くんのメッセージを読んで気が楽になった。ありがとう』と返信した。

次にゲームをプレイした時に、情報屋とクレムに謝ろう。

それから悠里は二時間ほど机に向かって勉強をして、お風呂に入って就寝した。



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