第百二十話 マリー・エドワーズたちはビー玉の鑑定結果を見る



マリーは手のひらを下に向けて『アイススター』を発動させようとしたが、器がなく氷が落ちてしまうことに思い至り、手のひらを上に向けた。


「魔力操作ON。アイススターON」


マリーの手のひらに星の形の氷が一つ出現した。


「冷たい……っ」


「わうーっ」


「真珠。大丈夫だよ」


マリーは心配そうに見つめる真珠に微笑んで、星の形の氷にビー玉を近づける。

ビー玉に星の形の氷が吸い込まれた。


「わあっ。ビー玉の中に星の氷がある……っ」


マリーは星の形の氷が閉じ込められたビー玉を真珠に見せた。


「真珠も見て。綺麗だね。可愛いね」


「わうぅうわんっ」


「しかもこのビー玉……」


マリーは言いかけた言葉を最後まで言わずに、真珠にビー玉を差し出す。


「真珠、ビー玉に触ってみて」


マリーに言われた真珠はおそるおそる右の前足でビー玉に触れ、目を丸くした。


「わううわっ」


「そうだよね。ビー玉、冷たいよね。不思議」


「ビー玉に火が入ったぞ!!」


マリーと真珠が冷たいビー玉を触って不思議がっている時、クレムは『ファイア』で火をビー玉に閉じ込めていた。

真珠は自分がクレムの作業を見ていなかったことに気づいて落ち込む。


「真珠くん。クレムくんが火をビー玉に閉じ込めたところは私が観察していましたので気にしないでください。分担は大事です」


情報屋の言葉を聞いた真珠は少し元気を取り戻して、鳴いた。


「ねえ。クレム。ビー玉を触ってみて何か感じる?」


「触って……? あぁ。そう言われてみるとあったかいかも」


クレムは火を閉じ込めたビー玉をぎゅっと握って言う。


「私にも触らせてもらえますか?」


情報屋に手を差し出されて、マリーは星の形の氷が閉じ込められたビー玉を彼の手のひらに乗せた。


「マリーさんと真珠くんが言うように冷たいですね。これを『鑑定』させて頂いても宜しいですか?」


「おいくら払って頂けるのでしょうかっ!?」


「そうですね。これまでの検証作業に銀貨5枚。鑑定を了承していただけた場合は銀貨3枚。鑑定結果次第で対価をお支払いします」


「私たちにも鑑定結果を見せてくれるのなら、その条件でお受けします」


「おおっ。マリー。冴えてるなっ」


クレムに褒められてドヤ顔になるマリーに苦笑して、情報屋は口を開いた。


「その条件でお願いします。先に銀貨8枚をお支払いしますね」


情報屋はマリーに銀貨8枚を渡した。


「ありがとうございますっ」


マリーは喜々として銀貨8枚をアイテムボックスにしまう。

クレムはそれを見ているだけで、自分の作業報酬を要求しようとしない。

情報屋はマリーが銀貨をアイテムボックスにしまっている間に星の形の氷が閉じ込められたビー玉を鑑定した。

そして鑑定内容を黒革の手帳に万年筆で書き写している。

マリーたちは無言で情報屋が書き写し終わるのを待っている。

情報屋が万年筆を置き、顔を上げた。


「書き写し終えました」


情報屋の向かいのソファーに座るマリーたちが見やすいように手帳の向きを変えて差し出す。

マリーと真珠、クレムは顔を寄せて手帳を覗き込んだ。

真珠は文字が読めないので、マリーが内容を読み上げる。





星の形の氷が入ったガラス玉


アイテム/Dランク。


ガラス玉に星の形の氷が入ったもの。

触るとひんやりと冷たい。





「なんか、見たままの説明文だね……」


「ゲーム制作スタッフの手抜き感がすごいな……」


「くぅん……」


マリーたちが簡素で面白味がない説明文にがっかりしている間に、情報屋は火を閉じ込めたビー玉と何もしていないビー玉の鑑定をしていた。

マリーたちが説明文を読み終えて手帳を返すと、情報屋は万年筆で鑑定をした情報を写し始める。


「きっと、火を閉じ込めたビー玉の説明は『ガラス玉に火が入ったもの。触ると温かい』とかだと思う」


「マリーに同意」


「くぅん……」


「でも、なにもしてないビー玉の鑑定結果はちょっと気になる」


マリーたちはソファーの背もたれにだらしなく寄りかかりながら、やる気なく情報屋が万年筆を置くのを待った。

情報屋が万年筆を置き、顔を上げる。


「書き写し終えました」


「オレはもう見なくてもいいや。魔力操作ON。ファイアON」


鑑定結果に興味をなくしたクレムは『ファイア』のレベル上げを始めた。


「私は読ませてもらいたいな。真珠はどうする?」


「わんっ」


真珠はマリーに肯いた。

情報屋はマリーたちが見やすいように手帳の向きを変えて差し出す。

マリーと真珠は手帳を覗き込んだ。

真珠は文字が読めないので、マリーが内容を読み上げる。





火が入ったガラス玉



アイテム/Dランク。


ガラス玉に火が入ったもの。

触るとほのかに温かい。





「説明文、私の予想とほぼ同じ……」


「くぅん……」


マリーと真珠はがっかりしたが、気を取り直して何も入っていないガラス玉の鑑定結果に目を通す。

真珠は文字が読めないので、マリーが内容を読み上げた。





ガラス玉



アイテム/Aランク。


錬金を失敗した時にできるガラス玉。

錬金素材にはならない。





ガラス玉の説明文は極めて簡素だった。

説明文を読んだマリーは首を傾げる。


「ガラス玉がなんでAランクなの……?」


「くぅん……?」


真珠もマリーと一緒に首を傾げた。


「もしかしてバグ?」


「私はバグではなく仕様ではないかと思います」


情報屋はマリーの言葉を否定した。


「魔力操作OFF。でもおかしくね? 失敗アイテムだったらランクはDかEだろ? 実際、錬金素材にならないし」


クレムが『ファイア』のレベル上げをやめて話に入って来た。

皆で首をひねって考えても答えが出ない。情報屋はマリーを見つめて口を開いた。


「マリーさん。私からあなたに依頼を出したいと思うのですが」


「私、自分の固有クエストでいっぱいいっぱいなんですけど……っ」


「今の鑑定結果の対価として銀貨3枚。依頼を受けて頂ければ前金として金貨20枚をお支払いします」


「前金っていうことは後金も支払ってもらえるということですかっ!?」


「はい。但し、依頼達成のために費用が掛かる場合は前金から支払っていただきます。宜しいですか?」


「よろしいです!! やります……っ!!」


金貨20枚に目がくらんで引き受けたマリーの服の袖を引っ張り、クレムが口を開いた。


「依頼内容も聞かずに引き受けて大丈夫か? 前金で金貨20枚とか、相当難しい依頼なんじゃねえの?」


クレムの指摘で冷静になったマリーは、軽率に依頼を受けると言ったことを後悔して青ざめる。

真珠はそんなマリーを見て、こっそりため息を吐いた。


***


マリー・エドワーズが情報を売って受け取った対価 金貨1枚/銀貨37枚


※ 金貨20枚/銀貨3枚は提示があっただけでまだ受け取っていない


若葉月10日 朝(2時55分)=5月5日 17:55

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