第百十五話 マリー・エドワーズと真珠は情報屋との商談を終える



「他になにか売って頂ける情報はありますか?」


「はいっ。私、新たな固有クエストが発生したんです」


マリーは情報屋に固有クエスト『父親と彼の親友を仲直りさせよう』の内容を説明した。

情報屋の反応は薄い。マリーは諦めずに話を続ける。


「転送の間で固有クエストを確認していたんですけど、私がクエストの達成条件を満たすのは無理って叫んだらサポートAIさんがヒントをくれて」


「サポートAIがクエスト達成のためのヒントをくれたんですか?」


「はい。サポートAIさんはいつもネタバレに厳しいのに珍しいなあと思ったんですけど、すごくありがたくて。私、ヒントが必要だと言いました」


「ヒントの内容を教えていただけますか?」


マリーは情報屋に尋ねられて『ダリル・クレムソンとクレム・クレムソンを仲直りさせれば何か進展があるかもしれない』と言われたと話す。


「同じ名字ですね。彼らは兄弟か親子ですか?」


「親子です。息子のクレムはプレイヤーでフレンドになったんです。クレムは『錬金術師ギルドの登録料を払うために家から金を持ちだしたら勘当された』と言ってました」


「錬金術師ギルドの登録料ですか。それは、大金を持ちだしたものですね」


感心したように情報屋が言う。彼はクレムが持ちだした金額の見当がついているようだ。

クレムがいくら持ちだしたのかは知りたくないとマリーは思った。

世の中には知らなくてもいいことがある。


「私はクレムにメッセージを送って『お父さんと仲直りしてほしい』とお願いしました」


交換条件として『ガラスの欠片を拾える場所を教える』と書いたことは情報屋には黙っておく。

情報屋に売った情報を無料で誰かに教えたと知られるのは気まずい……。


「固有クエストを達成できるといいですね」


「情報屋さんの協力があれば、きっと借金を返せます!!」


「わんっ!!」


輝く笑顔を浮かべるマリーと真珠を見て、情報屋は苦笑した。


「では、マリーさんのクエスト達成を願ってここまでの情報に金貨2枚をお支払いします」


「ありがとうございます……っ!!」


マリーは情報屋から金貨2枚を受け取ってアイテムボックスに収納した。


「他に売って頂く情報はありますか?」


「はい。ありますっ。真珠が冷たいミルクをおいしく飲んで、コッコのから揚げを食べましたっ。コッコのから揚げは鳥の塩から揚げの味がしました。あと『こおりばこ』という食べ物や飲み物を冷やす箱があるそうですっ」


「わんわんっ」


自信満々でマリーが言い、真珠も胸を張る。


「情報をありがとうございます。そうですね、その情報には銅貨1枚を払いましょう」


「もう一声っ」


「わぉうんっ」


「その情報にはこれ以上は出せません」


きっぱりと情報屋が言う。マリーと真珠は項垂れた。


「でも、真珠くんがおいしく飲んだり食べたりできてよかったですね」


「はいっ」


「わんっ」


情報屋の優しい言葉にマリーと真珠は顔を上げて笑顔で肯く。

そしてマリーは情報屋から銅貨1枚を受け取ってアイテムボックスに収納した。

マリーが銅貨をアイテムボックスにしまい終えたところで、情報屋が口を開いた。


「鑑定師ギルドの副ギルドマスターについての情報はなにかありませんか?」


「ないです……」


「くぅん……」


「女性プレイヤーの顧客のうちの数人が彼の情報に大金を出すと言ってくれているので、彼が産まれた日や年齢、好きな女性のタイプ、趣味や仕事が何時に終わるか等なんでもいいのでわかったことがあったら連絡をください」


「わかりました。レーン卿の情報を知ったら必ず情報屋さんに連絡します」


「わんっ」


マリーと真珠は情報屋に肯く。

もう、今の時点で情報屋に売れそうな情報はない。マリーと真珠は情報屋に挨拶をして立ち上がる。


「マリーさん。真珠くん。気をつけて帰ってくださいね」


マリーと真珠は情報屋に見送られて彼のルームを出た。


***


マリー・エドワーズが情報を売って受け取った対価 金貨8枚/銀貨1枚/銅貨1枚


若葉月10日 朝(2時01分)=5月5日 17:01



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