第百九話 5月5日/おやつを食べた後にログイン
自室で杏仁豆腐を食べ終えて、紅茶を半分ほど飲んだ悠里はストレッチをして再び『アルカディアオンライン』をプレイすることにした。
残った紅茶はあとで飲もう。
悠里はコードを繋ぎっぱなしにしていたゲーム機とヘッドギアの電源を入れ、ヘッドギアをつける。
そしてベッドに横になり、目を閉じた。
「『アルカディアオンライン』を開始します」
サポートAIの声がした直後、悠里の意識は暗転した。
気がつくと、悠里は転送の間にいた。
無事に転送の間に来られてよかった。
「プレイヤーの意識の定着を確認しました。『アルカディアオンライン』転送の間へようこそ。プレイヤーNO178549。高橋悠里様。高橋悠里様のプレイヤーレベルが6になりましたのでお知らせ致します。これに伴い、高橋悠里様は一日あたりゲーム内通貨600リズをリアルマネーの600円に変換することが可能になりました」
「私、なんにもしてないのに怖いくらいにプレイヤーレベルが上がる……」
でも、それは悪いことではない。むしろ良いことだ。
「えっと、じゃあ、今日はあと100円を変換できるっていうことですよね?」
「左様です。変換しますか?」
「しますっ」
「作業中……。作業終了。高橋悠里様の登録口座に100円を入金しました。後程、お確かめください。高橋悠里様の現在の所持金は2125201リズです」
「ありがとうございます!! 貯金が100円増えちゃった」
100円あればおいしい駄菓子がいくつか買える。素晴らしい。
リアルマネーもゲーム内通貨も増やせるように頑張ろうと悠里は思う。
「じゃあ、私はもう行きますね。さっき強制ログアウトしちゃったからマリーと真珠の身体がどうなっているのか心配なので」
「強制ログアウトが安全であることは確認済みですが、非推奨です。次回以降はぜひ、通常ログアウトをお願いします」
「できるだけ気をつけますっ」
「それでは、素敵なゲームライフをお送りください」
サポートAIの声に送られ、悠里は鏡の中に入っていった。
マリーが目を開けるといつも目覚める部屋にいた。部屋の中は薄明るい。もう、夜が明けたのだろうか。
マリーは自分のベッドに横たわっていて、傍らには父親がいる。
マリーの隣には真珠もいる。よかった。
母親がなんとかしてマリーと真珠を家に連れ帰ってくれたのだろう。
マリーは寝巻を着ている。着替えさせてもらったようだ。
採取袋と服につけていたバッジは机の上にあるのだろうか。
マリーが身動きをせず、声も出さないので目覚めた真珠もじっとおとなしくしている。
……いつまでも息をひそめてベッドに横になっていても仕方が無い。
「お父さん」
マリーはベッド脇で木の椅子に座って目を閉じている父親に、小さな声で呼びかけた。
父親は目を開けてマリーを見て、口を開く。
「私と真珠、うちに帰る途中で寝ちゃったんだよね。お母さんがうちに連れて帰ってきてくれたの?」
「母さん一人ではマリーとシンジュを運ぶのは無理だ。『銀のうさぎ亭』で俺を呼んで来るように通りかかった人に頼んて、知らせを聞いた俺が母さんたちを迎えに行ったよ。母さんと合流して、俺がマリーとシンジュを部屋に運んだ」
「そうだったんだ。ありがとう。お父さん」
「わぅわうう」
マリーと真珠は父親にお礼を言う。父親はマリーと真珠を見つめて微笑んだ。
父親に笑いかけてもらって嬉しくなったマリーは真珠と目を合わせて微笑む。そして彼の頭を優しく撫でた。
マリーに撫でられた真珠は嬉しそうに青い目を細める。
「お母さんは?」
「一階で働いている。揚げ物をたくさん食べたから腹ごなしに動きたいと言っていた」
「お父さん。私たちは『歌うたいの竪琴』に行って来たんだよ。お母さんから話は聞いた?」
「……ああ」
「『歌うたいの竪琴』のダリルさんのところにはいつ行くの? 仲直りするんでしょう?」
「俺は行かない」
父親がそう言った直後にサポートAIの声が響く。
「条件を満たしましたのでマリー・エドワーズに固有クエストが発生しました。
尚、このクエストは強制受注になります。
詳しくはステータス画面の『クエスト確認』をご確認いただくか、転送の間でサポートAIにお尋ねください」
「嘘でしょ……っ!?」
突然の固有クエストの発生アナウンスに、思わずマリーは声を上げた。
父親は憮然とした顔で口を開く。
「嘘なんかじゃない」
マリーはサポートAIのアナウンスに驚いて声をあげてしまったのだが、父親は自分が言ったことを嘘だと否定されたと思ったようだ。
「うちの食堂ではもう酒は出さない。……ダリルには会わない」
父親はそう言ってマリーから顔を背けた。
「母さんにマリーが目覚めたと知らせてくる」
父親が部屋を出て行くと同時に、マリーは頭を抱えた。
「借金返済クエストにかかりっきりになってるのに新しい固有クエストとか無理だから!!」
「わうー。くうん……」
「真珠。起きたばっかりなんだけどもう一回寝ようね。私、とりあえず転送の間で新しい固有クエストを確認してくるからね」
「わん」
マリーは真珠を撫でた後、口を開いて言った。
「リープ」
マリーの意識は暗転した。
***
高橋悠里のプレイヤーレベルが6に上昇。
高橋悠里の5月5日の換金額 500円→600円
高橋悠里の貯金額 900円
マリー・エドワーズの現在の所持金2125201リズ
若葉月10日 早朝(1時10分)=5月5日 16:10
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