第九十九話 高橋悠里は『アルカディアオンライン』が日本に住むすべての人がプレイ可能なゲームだと知る
気がつくと、悠里は転送の間にいた。
さっきに着替えた部屋着姿になっている。
「プレイヤーの意識の定着を確認しました。『アルカディアオンライン』転送の間へようこそ。プレイヤーNO178549。高橋悠里様」
「こんにちは。サポートAIさん」
今回はサポートAIからのお知らせは特にないようだ。
悠里は要に尋ねられたことをサポートAIに確認しようと思い立ち、口を開く。
「サポートAIさん。質問してもいいですか?」
「どうぞ」
「『アルカディアオンライン』をプレイするためには声紋登録が必要ですよね?」
「左様です」
「だったら、声が出せない人は『アルカディアオンライン』で遊べないんですか?」
「ゲーム機器の電源を入れ、横たわった状態でヘッドギアを装着して目を閉じれば、誰でも『アルカディアオンライン』をプレイ可能です。代理人による申請を行ったプレイヤーの声紋登録は転送の間で行われます」
「寝たきりで動けない人でも、誰かにゲーム機器送付の申請を代わりにやってもらって、電源を入れたゲーム機とヘッドギアをつければゲームで遊べるということですか?」
「左様です。『アルカディアオンライン』の転送の間では、すべてのプレイヤーは自身が望んだ姿で自由に身体を動かし、話し、笑い、思考することができます」
「よくわかりません」
「リアル年齢が30代の女性プレイヤーは、転送の間で20歳の姿になることが多いようです」
「若返るんですかっ!?」
「自分の理想のイメージが体現されます」
「私、今、部屋着だし、顔とか全然変わってないですけど……」
姿見の鏡の中の自分の姿を見て、悠里は呟く。
「シミを消したい、皺をなくしたい等の強い感情が欠如しているため、リアルの姿そのままということではないでしょうか」
サポートAIの言葉を聞いた悠里は、初めてこのゲームにログインした時のことを思い出す。
姿見の鏡の中には毛玉だらけのトレーナに、小学生の頃から履いているジャージ姿で、よれよれの靴下を履いている自分がいてすごく嫌で。
もっと可愛い洋服を着ればよかったと強く思ったその時、クリーム色のワンピースを着た姿に変わった。
今は、ゲームを始めたらいつでも髪がふわふわで、肌がつるつるの可愛いマリーの姿になるとわかっているので部屋着姿でも全然平気だけれど、初めてログインした時には人前に出られない恰好でゲームを始めなければいけないのかと絶望的な気持ちになって、それは絶対に嫌だと思った。
その強い思いがあったから姿が変わったのかもしれない。
「じゃあ、日本に住んでいる全ての人が『アルカディアオンライン』で遊べるんですね」
「左様です」
「でも、日本語がわからない外国の人はどうするんですか?」
「ある程度の日本語を、転送の間で学習していただきます。ワタシは多数の言語を話せるように制作されているので教師役をつとめます」
「すごい!! 無料の日本語教室ですね」
「左様です。ゲーム機器の申請は、日本語以外の言語でも受け付けています。サポートスタッフも補助いたします」
「そこまでやるなら、言語選択とかできるようにしたらよかったんじゃないですか……?」
「『アルカディアオンライン』は日本人が日本で生産した、日本に住む人々を幸福にする一助となることを目指すゲームです。日本語習得は必須だとゲーム制作スタッフは考えます」
「日本に住む人々を幸福にするゲームっていいですね。誰も仲間外れにされない感じがする」
「『仲間外れ』は発生しています。『アルカディアオンライン』の申請要件が『日本に在住している』ということにクレームの嵐が吹き荒れています」
「外国に住んでいてこのゲームで遊びたい人たちを仲間外れにしているんですね……」
「『アルカディアオンライン』をプレイしたいと考えるのであれば、日本への移住をすすめています」
「強気すぎる……!!」
「『アルカディアオンライン』をプレイしたいという希望者に、人口減少が著しく空き家が多い市町村へ移住していただく計画が進行中です」
「そんなことを始めてるの!?」
なんだか壮大な話になっている。ついていけない悠里はゲームを始めることにして、姿見の鏡の中に入っていった。
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