第九十四話 高橋悠里は憧れの先輩と1年5組の教室に向かう
悠里と要は学校に到着した。その足で職員室に行き、吹奏楽部顧問の矢上先生から楽器がしまってある音楽準備室の鍵を借りる。
矢上先生は20代の男性教師で独身だ。だから、休日出勤が必要な部活顧問に立候補したと吹奏楽部の新一年生に自己紹介をした時に話していた。
既婚者の先生は、休日はなるべく休ませて家族と過ごさせてあげたいと言い、将来、自分が結婚した暁には部活顧問は新任の後輩教師に譲ると宣言している。
悠里は先生の言葉を聞いて、部活の顧問はすごく大変な仕事なのだと初めて知った。
「美味そうな匂いさせてんなあ」
矢上先生は要が持っている紙袋を見て、言った。
「すみません。先生への差し入れを買い忘れました」
要が申し訳なさそうに言う。
先生への差し入れ!! そんなこと思いつきもしなかった悠里は要の言葉を聞いて驚く。
「生徒にタカるほど落ちぶれてないから。でもそれ牧高食堂の紙袋だろう? テイクアウトやってたんだな」
「最近、始めたんですよ。テイクアウト」
「今日の昼飯は牧高食堂にしよう」
悠里の言葉を聞いた矢上先生が言うと、職員室内にいる先生たちが次々に手を上げる。
「じゃあ今から買い出しに行くんで!! とりあえず千円ずつ徴収しますから用意お願いします」
矢上先生は手を上げた先生たちに向かってそう言った後、悠里と要に笑顔を向けた。
「昼飯食ったらすぐに帰れよ。鍵は帰りに職員室に返しに来るように。ゴミは持ち帰るんだぞ」
悠里と要は矢上先生の言葉に肯き、挨拶をして職員室を出た。
そして四階の音楽準備室に向かう。
ゴールデンウィーク中の校舎には人気がなく、悠里と要の足音だけが響く。
コロナ禍でなければ吹奏楽部の演奏や合唱部の歌声が響き、文化部が校舎内の各部室で活発に活動していたのかもしれない。
四階に到着した。音楽準備室は音楽室の隣にある。
要は音楽準備室の鍵を開け、扉を開けた。
悠里は要に続いて室内に入った。こもった空気が鼻をつく。
扉を開け放したまま、サックスがしまってある棚に向かった。
「先輩。私が紙袋を持ちます」
「ありがとう。じゃあ、お願いするね」
要は悠里に昼食を入れた紙袋を預けて、アルトサックスが入ったサックスケースを二つ棚から出した。
「三階の教室を使わせてもらおうか」
「じゃあ、私のクラスに行きませんか? 1年5組です」
悠里の言葉に要は肯き、音楽準備室の鍵を悠里に渡した。
「俺、両手が塞がっちゃうから、準備室の鍵をしめるのをお願いできる?」
「はい」
悠里は要から鍵を受け取った肯く。
要はサックスケースをそれぞれの手で持ち、先に音楽準備室を出た。
悠里は要の後から音楽準備室を出て、鍵をしめる。
そして二人は三階に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます