第九十一話 マリー・エドワーズは情報屋に値上げ交渉をする



マリーは膝の上に真珠を乗せて情報屋と向き合い、表情を引き締める。

ウェインはマリーの隣にぼーっと座っている。


「私、情報屋さんに買ってもらいたい情報があるんです」


「聞きましょう。情報を聞いてから報酬額を提示します」


「なるべく高くお願いします!! 私、借金が1000万リズあるんです……っ!!」


マリーは勢いよく言って、頭を下げた。


「マリーさんの個別イベント関連の借金ですか? イベント内容を教えて頂ければいくらか報酬をお出ししますよ」


それはお得だ!! マリーは情報屋の言葉に肯き、マリーが最初に目覚めてから個別イベントが発生するまでを掻い摘んで話した。

情報屋はマリーの話を肯きながら聞いている。ウェインも相槌を打ちながら耳を傾けている。


「ウォーレン商会が『銀のうさぎ亭』の土地と建物の権利書を手に入れていたことは知りませんでした。銀貨5枚を差し上げます」


「もう一声……!!」


「この情報にこれ以上は出せません」


情報屋は笑顔でマリーの値上げ交渉を跳ねのける。

マリーはこの情報で値上げしてもらうことを諦めた。


「銀貨5枚でお願いします……」


マリーは情報屋から銀貨5枚を受け取ってアイテムボックスに収納した。


「金を積めば『リザレクション』を使える聖職者を呼ぶことが可能という情報には銅貨3枚を差し上げます」


「もう一声……!!」


マリーは値上げを要求した。


「では石貨1枚を追加します」


1リズ……!! でもちょっとは増えた。マリーはとりあえず引き下がることにした。


「それでお願いします」


マリーは情報屋から銅貨3枚と石貨1枚を受け取ってアイテムボックスに収納した。


「ではマリーさんが売りたいという情報を教えて頂けますか?」


「はい。えっと、真珠がつらい気持ちになるかもしれないので、真珠の耳をふさぎますね。真珠、ちょっとだけ我慢してね」


「くぅん」


マリーは膝の上の真珠の両耳を両手で塞ぎ、口を開く。


「この前、ウェインと薬師ギルドの作業室でシルバーフォレストウルフの肉をおいしくする料理法を考えようってことになって」


「俺とマリーが考えたレシピがあるんだけど、買い取ってもらえる? 『銀のうさぎ亭』のメニューに加えることを了承した上で値付けをしてほしい」


ウェインはアイテムボックスから四つ折りに畳んだ紙を取り出して、情報屋に渡す。

情報屋はレシピを確認して少し考えた後に口を開いた。


「モンスター肉にヒール草を使うレシピは王都にレストランを開いたプレイヤーが最初に考案したものだと思います。『銀のうさぎ亭』のメニューに加える分には問題ないでしょうが、この情報に対価は出せません」


「そっか。残念だけど仕方ない」


ウェインは情報屋から返されたレシピの紙をマリーに手渡そうとしたが、マリーの両手が真珠の耳を塞ぐために使われているのを見て諦め、紙をアイテムボックスにしまう。


「えっと、私が話していいですか?」


「マリーさん。どうぞ」


情報屋に促され、マリーはシルバーフォレストウルフの肉を見た真珠が怯えてしまったという話をした。


「それは興味深いですね。今、ここで真珠くんにシルバーフォレストウルフの肉を見てもらうことはできますか?」


「できませんっ!!」


「そうですか。検証不可な情報なので銅貨5枚になりますが宜しいですか?」


「よろしいです……」


真珠をつらい状況に追い込んでまでお金が欲しいとは思わない。

マリーは情報屋から銅貨5枚を受け取ってアイテムボックスに収納した。


「真珠。話は終わったよ」


マリーは真珠の両耳から両手を離して微笑む。

ウェインはアイテムボックスにしまったレシピを書いた紙を出してマリーに手渡す。


「ありがとう。ウェイン」


「どういたしまして」


ウェインはマリーに微笑んだ。


***


マリー・エドワーズが情報を売って受け取った対価 石貨1枚/銅貨8枚/銀貨5枚


マリーはウェインからシルバーフォレストウルフの肉をヒール草でもみ込み焼くレシピが書かれた紙を貰う。


若葉月8日 真夜中(6時00分)=5月5日 9:00

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