第九十話 マリー・エドワーズは死に戻りして情報屋に会いに行く
気がつくと、悠里は転送の間にいた。
朝に着替えた部屋着姿になっている。
「プレイヤーの意識の定着を確認しました。『アルカディアオンライン』転送の間へようこそ。プレイヤーNO178549。高橋悠里様。高橋悠里様のプレイヤーレベルが5になりましたのでお知らせ致します。これに伴い、高橋悠里様は一日あたりゲーム内通貨500リズをリアルマネーの500円に変換することが可能になりました」
「すごい!! またプレイヤーレベルが上がった……!!」
情報屋に売った情報がまた売れたのかもしれない。
「お金、500リズを500円に変換します」
「作業中……。作業終了。高橋悠里様の登録口座に500円を入金しました。後程、お確かめください。高橋悠里様の現在の所持金は1123900リズです」
「ありがとうございます!! 貯金額が800円になっちゃった。すごいっ」
「プレイヤーNO59721ウェインからメッセージが届いています」
「本当? 情報屋さんと連絡取れたのかな。ステータス」
悠里はステータス画面を表示させて、フレンド機能でウェインからのメッセージを確認する。
♦
情報屋と連絡取れて、今、情報屋のルームにいる。9:00まではいるから、ログインしたら連絡して。
♦
「情報屋さんと連絡取れたんだ。よかった」
悠里はウェインに『今、ログインしたよ。これから真珠と教会に行くね』と返信した。
「返信終了っ。じゃあ、私、ゲームをプレイしますね」
「それでは、素敵なゲームライフをお送りください」
サポートAIの声に送られ、悠里は鏡の中に入っていった。
マリーが目を開けると、部屋の中は暗かった。今は夜なのかもしれない。
「マリー」
「わうー」
母親と真珠が同時に声を掛けて来た。
「おはよう。お母さん。真珠」
マリーは母親と真珠に微笑む。
夜だけれど目覚めの挨拶だから『おはよう』でいいだろう。
部屋には母親と真珠、マリーしかいない。父親は仕事をしているのかもしれない。
「目が覚めてよかった。お祖母ちゃんがマリーの状態は『正常』だって教えてくれたけど、目覚めるまでは心配で……」
「心配をかけてごめんね。お母さん。でも私は大丈夫だよ。ウェインとの約束があるからもう出かけるね」
「こんな夜に出かけるの?」
「うん」
マリーはベッドから下りて、着替えさせられていた寝巻から出かけられる服に着替える。
真珠も身軽にベッドから下りた。
「マリー。せめて朝になってから出かけなさい。子どもがこんな時間に外出するなんて危ないわ」
「でも、時間がないから」
マリーは机の上の採取袋を身につけながら言う。
「お金を貯めないと『銀のうさぎ亭』を出て行かなくちゃいけなくなる」
「子どもがそんなこと、気にしなくていいの」
「でも私のせいだから」
マリーはアイテムボックスに収納していた勇気のバッジを右胸につけて、母親を真っ直ぐに見つめる。
「私が頑張ってお金を稼いで『銀のうさぎ亭』の土地と建物の権利書を買い戻すよ。真珠、おいで」
「わんっ」
マリーは駆け寄って来た真珠を抱っこして口を開く。
「魔力操作ON。ライトON」
真珠を抱っこしていない方の手のひらの上に、小さくて淡い光の玉が出現した。
母親が目を丸くする。
「ライトON。ライトON」
マリーは光の玉を次々に増やしていく。
そして魔力枯渇になり、マリーは死んだ。
気がつくと、マリーは教会にいた。真珠も一緒だ。
母親をびっくりさせてしまったかもしれないが、仕方がない。
情報屋に会って情報を売って、お金を増やして借金を返済する目処をつける。
「わうー」
「真珠。いきなり死に戻ってごめんね。こうした方が時間を節約できると思って」
「わんっ」
「ウェインにメッセージを送ろう。ステータス」
マリーはステータス画面を出現させて、ウェインにメッセージを書いた。
♦
今、教会についた。フローラ・カフェに行けばいい? 情報屋さんの名前ってなんだっけ?
♦
「送信っ。ウェインから返事来るまで暇だからスキルのレベル上げとかしようかなあ」
マリーがどのスキルのレベル上げをするか考えていると可愛らしいハープの音が鳴った。
ウェインからの返信が来たようだ。マリーはウェインからのメッセージを確認する。
♦
今、迎えに行くから待ってて。
♦
「真珠。ウェインが今、迎えに来てくれるって」
「わぅんっ」
マリーはレベル上げを中止してフローラ・カフェに通じる扉の前で、真珠と一緒にウェインを待つことにした。
「そういえば私、プレイヤーレベル5になったからフローラ・カフェで会員登録できるのかなあ。後でウェインに聞いてみよう。とりあえず今は、情報屋さんに会うのが先だね」
「わんっ」
マリーと真珠がフローラ・カフェに通じる扉の前に立ったその時、扉が開いて向こう側からウェインが現れた。
「迎えに来てくれてありがとう。ウェイン」
「わうわぉう」
「どういたしまして。じゃあ、行こうぜ。階段、そのまま出しっぱなしにしてもらってるから」
マリーと真珠はウェインに続いて中に入り、ルームに続く階段に足を踏み入れた。
「そういえば、エスカレーターになったんだよね。この階段」
「そう。『下りON』」
ウェインがそう言うと、階段が下に向かって動き出した。
「へえ。便利。上る時は」
「言うなよ!! 上っちゃうから!!」
「あ。そっか」
「止める言葉も聞くなよ。言ったら止まっちゃうから」
「了解」
「わおん」
階段がエスカレーターになったおかげで、前回より楽に時間を短縮してルームに続く扉に到着した。
ウェインは正面の壁にある扉を開け、マリーと真珠はウェインの後に続く。
ルームのソファーに座っていた情報屋は立ち上がり、微笑する。
「またお会いできて嬉しいです。マリーさん。真珠くん。ウェインくん。マリーさんと真珠くんを案内してくれてありがとうございます」
「あのっ。情報屋さん。私とフレンドになってもらえませんか?」
「喜んで」
マリーと情報屋はお互いの腕輪を触れさせた。
マリーの目の前に画面が現れる。
♦
プレイヤーNO8029デヴィット・ミラーとフレンド登録しますか?
はい/いいえ
♦
マリーは『はい』をタップした。フレンド登録が無事終了する。
これでウェインを頼らなくても、いつでも情報屋に連絡できるようになった。よかった。
「マリーさん、真珠くん。ソファーにお掛けください」
情報屋はマリーと真珠にソファーをすすめた。ウェインはすでにソファーに座っている。
「ありがとうございます」
「くぅん……」
「真珠は足が汚れているのを気にしてるんだよね。私が抱っこするから大丈夫だよ」
「わんっ」
「真珠くんは綺麗好きで礼儀正しいですね。この部屋は定期的に『クリーン』をかけているから気にしなくていいですよ」
『掃除』スキルが死にスキルになりそうな『クリーン』というスキルの存在に複雑な気持ちになりつつ、マリーは真珠を抱っこしてソファーに座った。
さあ。商談を開始しよう。
***
高橋悠里のプレイヤーレベルが5に上昇。
高橋悠里の5月5日の換金額 500円
高橋悠里の貯金額 800円
マリー・エドワーズの現在のMP 31/31
ライト レベル2(40/100)
魔力操作 レベル2(170/200)
マリー・エドワーズとプレイヤーNO8029デヴィット・ミラー(情報屋)がフレンドになる
若葉月8日 夜(5時50分)=5月5日 8:50
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