第八十八話 マリー・エドワーズは見知った顔に連続で遭遇する
マリーと真珠は西門に到着した。
西門を出る列に並び、順番を待つ。
「あっ。また会ったね」
突然、前に並んでいた少女がマリーを振り返って言った。
すらりと背が高いショートカットの彼女には見覚えがある。
確か『イヴ』と呼ばれていた。
「こんばんは。あっ。ゲームだとおはようかな?」
彼女は今日、一人のようだ。前に会った時に一緒にいたストッパーになってくれそうな小柄な少女の姿がない。
「おはようございます」
マリーは挨拶をして頭を下げた。今は5歳の幼女なので年上の彼女に敬意を払い、丁寧な言葉を使う。
真珠が彼女からマリーを守るように立ち、警戒を示す。
「この前も思ったけど、可愛い犬だね。どこでテイムしたの?」
「内緒です」
ぐいぐい来る少女に、マリーは可愛らしい笑顔を浮かべて対応する。
ゆっくりと列が進んでいく。この面倒なプレイヤーとトラブルなく別れたい。
「あたし、イヴっていうの。名前を聞いてもいい?」
「秘密です」
「えー。名前、教えてよ。今、一人で寂しいから一緒に遊べたらいいのにって思ったんだけど」
ナンパ男と断る女のような会話になってきた。
イヴが誘い、マリーが笑顔でかわすというやり取りを続けていると列が前に進む。
マリーの後ろにも人が並んだ。
「イヴさんの順番が来たみたいですよ」
「あ。本当だ」
イヴは軽やかな足取りで門番に歩み寄る。
ようやく解放されたマリーは長い吐息をついた。……疲れた。
「わうー。わうわぅん?」
「大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
心配そうにマリーを見つめる真珠の頭を優しく撫で、マリーは微笑んだ。
イヴは兵士の検閲を終えて、門の外に出て行く。
次はマリーの番だ。
マリーは薬師ギルドのギルドカードをアイテムボックスから出して兵士のところに向かう。
「あ。君、この前、お祖母ちゃんと一緒に薬草採取をしてた子だよね」
マリーが差し出したギルドカードを受け取りながら、若い兵士が微笑む。
マリーと祖母が薬草採取をして街に入る時に、検閲を担当した青年だ。
さっきから、顔見知りに会う確率が高い。彼はNPCだからマリーのCHAが仕事をするかもしれない。
「お兄さん。お仕事お疲れさまです」
マリーは可愛い笑顔を浮かべて言った。
「ありがとう。西の森は今、モンスターが出ないと狩人ギルドから連絡が入っているけど、森の奥には行かないようにね」
「はいっ」
「わんっ」
マリーと真珠は元気に返事をした。兵士はマリーにギルドカードを返し、マリーと真珠の頭を撫でた。
……何も貰えないようだ。残念。
マリーはギルドカードをアイテムボックスに収納して、真珠と一緒に門を出た。
門の外で待ち伏せをしていたイヴを適当にかわしながら、マリーと真珠は西の森へ向かう。
イヴのプレイヤー善行値はマリーと関わったことで加速度的に下がっているような気がする。
西の森の入り口は賑わっていた。薬草がリポップしている。
マリーの取り分は、まだありそうだ。
採取袋から採取ナイフを取り出し、マリーはヒール草を探す。ついでにマナ草も採取したい。
しつこくマリーに話しかけ続けるイヴに怒った真珠が吠え立て、イヴは渋々マリーたちから離れていった。
「真珠。ありがとう」
イヴに聞こえないように小さな声でマリーは言って、採取ナイフを持っていない方の手で真珠の頭を撫でた。
真珠は誇らしげに耳を立て、胸を張る。
「真珠も一緒にヒール草を探してね」
「わんっ」
真珠は鼻をひくつかせて歩き出す。マリーは周囲を見回してヒール草を探した。
「少し暗いから『ライト』で照らしてみようかな」
マリーは手のひらを上に向けて口を開く。
「魔力操作ON。ライトON。わあっ。光の玉が出た……っ」
マリーの手のひらの上に小さくて淡い光の玉が出現した。
手のひらを動かしても光の玉はその場に浮遊している。
マリーが歩くと、光の玉はゆっくりとマリーの後についてくる。
「わうーっ!! わんわんっ!!」
真珠がヒール草を見つけてマリーを呼ぶ。
マリーは駆け足で真珠の元へと向かった。
***
若葉月7日 早朝(1時59分)=5月4日 20:59
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