第八十話 高橋悠里のプレイヤーレベルが3になり、ゲーム内通貨をリアルマネーに変換できるようになる
要に家まで送ってもらった悠里はお礼を言って彼を見送り、夢見心地のまま家に入る。
ダイニングのテーブルに五人分のハムカツサンドが入った紙袋を置き、マスクをゴミ箱に捨てた後、自室に向かった。
自室の机に楽譜が入った紙袋とハンドバッグを置き、洗面所に向かう。
洗面所で手を洗ってうがいをした後、悠里は鏡の中の自分の顔をじっと見つめる。
「先輩と二人きりで、お出かけしちゃった」
小さな声で呟くと、嬉しさと恥ずかしさが込み上げてくる。
今日いちにちで、今まで話した時間を合わせたよりも長く、要と一緒にいられた。
すごい。今日は素敵な一日だ。
朝に偶然、藤ヶ谷先輩に会って、午後から先輩と二人で出かけた。
藤ヶ谷先輩はアルトサックスを買いたくて、コーヒーにお砂糖もミルクも入れない。
さっきまでの会話、要の声と笑顔を思い返しながら悠里は自室に戻る。
「そうだ。はるちゃんと藤ヶ谷先輩にお礼のメッセージを送っておこう」
悠里はバッグからスマホを取り出してベッドに座り、晴菜と要にメッセージを送った。
そして買って来た楽譜を紙袋から出してパラパラと眺めた後、大切に本棚にしまう。
紙袋は綺麗に畳んで引き出しにしまった。大切な思い出の品の一つだから取っておきたい。
それから服を部屋着に着替える。
プリーツスカートはクローゼットにしまい、ブラウスと白いレースのハイソックスは洗面所に持っていく。
ブラウスと白いレースのハイソックスを洗濯ネットに入れ、洗濯カゴの中へ。
洗面所の鏡に部屋着の自分が映る。なんだか夢から覚めて現実に戻ったような気がする。
寂しいような、ほっとするような気持ちだ。
「トイレに行って、ゲームしよう」
悠里はトイレに行った後、自室に向かった。
自室に戻った悠里は出しっぱなしにしていたゲーム機とヘッドギアの電源を入れてヘッドギアをつけた。
ベッドに横になり、目を閉じる。
「『アルカディアオンライン』を開始します」
サポートAIの声がした直後、悠里の意識は暗転した。
気がつくと、悠里は転送の間にいた。
鏡の中の悠里は今日、要と会った時に着ていた服を着ている。
「転送の間の服装って、不思議」
悠里は姿見の鏡に映る自分の姿を見つめながら呟いた。
ゲームを始める時に着ている服の時もあるし、違う時もある。
「プレイヤーの意識の定着を確認しました。『アルカディアオンライン』転送の間へようこそ。プレイヤーNO178549。高橋悠里様」
「こんにちは。サポートAIさん。……夕方ってこんばんはの方がいいのかな」
「現在のリアルの時間は17:15です。『こんばんは』の方がより適当ではないかと考えます」
「じゃあ、こんばんは。サポートAIさん」
「こんばんは。高橋悠里様。高橋悠里様のプレイヤーレベルが3になりましたのでお知らせ致します。これに伴い、高橋悠里様は一日あたりゲーム内通貨300リズをリアルマネーの300円に変換することが可能になりました」
「えっ!? なんで!? 私、プレイヤーとほとんど関わってないし、フレンドも一人しかいないのに……っ」
バグではないだろうか。悠里が不安に思っていると、サポートAIが確認を始めた。
「確認中……。確認終了。高橋悠里様が情報屋のロールプレイ中のプレイヤーに正確な情報を売り、その情報が多数のプレイヤーに販売されたことが評価されてプレイヤー善行値が上昇。それに伴い、プレイヤーレベルが上昇したようです」
「正しい情報を売るって普通のことですよね。なんで、プレイヤー善行値が上がるんですか?」
「正しい情報は人の生命と財産を守り、適切な行動の指針になります。そのため『アルカディアオンライン』では正しい情報を発信することがプレイヤー善行値の上昇につながります」
「じゃあ、間違った情報を売ってしまうとプレイヤー善行値が下がっちゃうんですか?」
「左様です」
「わざと間違えたわけじゃなくても?」
「左様です」
「うわあ。怖い……」
「情報の流布には責任が伴います」
情報屋はこの仕様を知っているのだろうか。……知っているから情報の検証を行ったのか。
情報屋はルームを持てるくらいにプレイヤーレベルが高い。それは正しい情報を収集して販売しているからなのかもしれないと悠里は思う。
「高橋悠里様の現在の所持金は1124700リズです。本日のリアルマネー変換の上限は300リズ/300円です。変換しますか?」
「300リズを300円に変換したいです。お願いします」
真珠の分の銀貨を2枚預かっているけれど、銅貨3枚分を変換するなら問題ない。
「作業中……。作業終了。高橋悠里様の登録口座に300円を入金しました。後程、お確かめください。高橋悠里様の現在の所持金は1124400リズです」
「ありがとうございますっ。すごい。ゲームで楽しく遊んでいるだけなのに貯金が増えちゃった」
「『アルカディアオンライン』は一攫千金を狙うプレイヤーを応援します」
「今までで一番たくさん換金したプレイヤーさんって誰ですか?」
「個人情報に関わることについては、お答えしかねます」
ゲームの中でも個人情報保護の法律は順守されているようだ。
***
高橋悠里のプレイヤーレベルが3に上昇。
マリーのお小遣いが入ったガラス瓶は『お小遣いが入ったガラス瓶』というアイテム扱いなので所持金には反映されない。
高橋悠里の貯金額 300円
若葉月6日 昼(3時20分)=5月4日 17:20
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