第六十三話 マリー・エドワーズはウェインの薬師ギルド登録を見守る
マリーと真珠、ウェインは教会を出た。マリーは青空の下で伸びをする。
真珠はマリーとウェインの周りを一周して、嬉しそうに鳴いた。
「これからどうする?」
ウェインに問い掛けられたマリーは、少し考えて口を開く。
「ウェイン、お肉が余ってるって言ってたよね。くれるって言ったのまだ有効?」
「うん。余ってるから貰ってくれるなら助かる」
「私、お肉にヒール草をもみ込んで焼いてみたいんだよね。どこか料理できるところってある?」
「マリーは薬師ギルドに登録しているんだよな。だったら作業室を借りれば料理とかできるんじゃない?」
「確かに!!」
薬師ギルドの作業室は八畳くらいの広さで、理科室と家庭科室を合わせたような部屋だった。
マリーは小さいけれど椅子に乗れば加熱器を使える。
「俺も薬師ギルドに登録しようかな。料理して肉が美味くなったら嬉しいし」
「ウェインも料理に付き合ってくれたら心強いよ」
「料理のリアルスキル無いけどな」
「私もリアルでは食器洗いとかしかしたことない。カレーは作れるけど」
「カレー作れない日本人っている?」
「いないと思う。家庭科の授業でも習うし。カレールーは偉大だよね。食品メーカーさん、ありがとうって思う」
人通りが多いのでマリーは真珠を抱っこした。そして、ウェインと共に薬師ギルドに向かう。
「そういえば情報屋さんに従魔登録とか『従魔の輪』の情報を売るの忘れた」
「情報屋は真珠の右足の輪っかを見ても何も言わなかったから、もう知ってる情報だったのかも」
「そっかぁ。残念」
「くぅん」
マリーは真珠を抱っこしながらウェインと雑談をして、歩く。
すれ違う人の中にはテイムモンスターらしき鳥を肩に止まらせているプレイヤーがいたけれど『従魔の輪』をつけていないようだ。
薬師ギルドに到着した。素朴な味わいの木造の建物の扉をウェインが開けて、真珠を抱っこしたマリーが先に中に入る。
ウェインはマリーに続いて薬師ギルドに入った。
「あら。マリーちゃん。いらっしゃい」
初めて祖母と訪れた時のように閑散としたギルド内で、退屈そうに受付カウンターに座っていたギルド職員のヤナが、マリーを見て晴れやかに笑う。
「まあまあ。可愛いテイムモンスターを抱っこしているのね。今日はお友達と一緒なの? 今、踏み台を持ってくるから待っていて」
ヤナは言いたいことを一気に言って、カウンターの奥へと姿を消した。
「美声マシンガントーク……」
「わぅぅ……」
ウェインと真珠はヤナの勢いに気圧されている。
「ヤナさんはお祖母ちゃんの友達なんだよ。この前、蜂蜜飴をくれたの」
「蜂蜜飴か。あれ、美味いけど高いんだよなあ」
「きゅうん?」
「真珠にも今度食べさせてあげるね」
「わんっ」
マリーたちがお喋りをしていると、踏み台を持ったヤナが戻って来た。
ヤナはカウンターを出て踏み台を置く。
「お待たせ。マリーちゃん、踏み台を使ってね」
「ありがとうございます。あの、真珠をカウンターの上に乗せてもいいですか?」
「テイムモンスターをカウンターに乗せたいの?」
「はい」
「そう。テイムモンスターの名前は真珠っていうのね。いい名前ね。じゃあ、足を拭くものを持ってくるわね」
「ありがとうございます」
「わぅわううわううわ」
「ちゃんとお礼を言えて偉いわね」
ヤナは身を屈めて真珠の頭を撫で、マリーに微笑んでカウンターの奥に姿を消した。
「私、真珠と一緒のベッドで寝てるけど、今まで一回も真珠の足とか拭いたことなかった」
「くぅん……」
「別にいいんじゃない。テイムモンスターは基本、汚れない設定だろ。たぶん」
「きゅうん?」
「ウェインは大雑把すぎるから。これからは寝る前にはちゃんと足を拭いてあげるからね。真珠」
「わんっ」
濡れた布巾を手に持ったヤナが戻って来た。カウンターの外に出て真珠の足を布巾で綺麗にした後、真珠を抱っこしてカウンターの上に乗せる。
「ありがとうございます。ヤナさん」
「わぅわううわううわ」
「いいのよ。マリーちゃんは大事な薬師ギルドのギルド員で、真珠はマリーちゃんの大切なテイムモンスターなんだから」
微笑んで言うヤナに、ウェインが口を開いた。
「あの。俺も薬師ギルドに登録したいんですけど……」
「あらあら!! そうなの!! 嬉しいわ……!!」
ウェインの申し出に、ヤナは手を叩いて喜ぶ。
「ウェインの登録を先にしてあげてください」
「そう? そうね。そうしましょう」
マリーの提案を受けたヤナはウェインの登録手続きを進める。
「ウェインくんは何歳? 10歳未満の子は無料で登録できるんだけど」
「俺は10歳です」
「そうなの。じゃあ、登録料を貰わなくちゃいけないわ」
「払えます。狩人ギルドで稼いでいるので」
ウェインは登録料を払い、登録の手続きをする。
「これで手続き終了ね。ギルドカードを渡すわ」
「ありがとうございます」
ウェインは薬師ギルドのギルドカードを受け取った。
***
若葉月5日 朝(2時50分)=5月4日 10:50
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