第六十二話 マリー・エドワーズはテイム成功の条件について話し合う



教会に死に戻ったマリーは真珠、ウェインと情報屋と合流した。

そして情報屋のルームへと向かう。

情報屋本人がいても、白い壁に囲まれた階段を下りることになるようで、マリーは本日二度めの階段を地道に下りていた。

RPGをプレイしていると最初は『景色が綺麗』とか『ギミックが面白い』とか思うが、二度め以降はもはや作業だ。面倒くささしかない。

それと同じ『作業系』の疲労を感じながら、マリーはウェインのさっきの愚痴に共感した。確かにこの階段はかったるい。


マリーが口の中でため息を15回噛み殺したちょうどその時に階段を全て下りて情報屋のルームに続く扉にたどり着いた。

情報屋のルームに入り、ウェイン、真珠、マリーが並んで座り情報屋が向かいのソファーに腰掛けた。


「マリーさん。時間をいただき感謝します」


「いえいえ!! 私で役に立てることなら頑張ります」


借金返済のために!! マリーは心の中で付け加えた。


「実は、相談というのは『コオウノリョウイキ』で出会ったモンスターの鑑定結果のことなのです」


「真珠とそっくりな見た目だったんだけど、印象が全然違う奴だったよ」


情報屋の言葉をウェインが補足する。マリーは真珠の頭を撫でて、胸を張った。


「真珠は最高にかっこよくて可愛いから!! オンリーワンだよ!!」


「わんわんっ!!」


「いや、そういう印象とかじゃなくてさ」


「そのモンスターの種族名は『子狼王』だったのです。『白狼』ではなかった」


「ころうおう?」


「こう書きます」


黒革の手帳に万年筆で『子狼王』と書き、マリーに見せた。

ウェインと真珠も手帳を覗き込む。


「子狼王。狼王の子ってことかな? 『狼王』ってワールドクエストのレイドボスの名前じゃなかった?」


マリーはウェインに尋ねる。


「うん。俺も、さっきモンスターと戦った時にちょっと『狼王』に似てるなって思ったよ」


「子狼王は最初は真珠くんと同じ青い色の目だったのですが、戦いの途中で赤い目に変化してさらに凶暴化しました」


「レイドボスとそっくりな変化だったんだよ。凶暴化したレイドボスは強かった。すげえ地震が起きて、状態異常『恐怖』にかかったプレイヤーが大量に死に戻って大変だった」


遠い目をして言うウェインの言葉を聞いたマリーは、目を丸くして口を開いた。


「私も地震、怖かったよ!! すごく怖くて、ステータス画面を見たら、状態異常『恐怖』に掛かってた」


「マジか。マリーはレイドボスバトルに参加していなかったんだよな?」


「うん。私は薬師ギルドの作業室にいたよ」


「それは興味深い話ですね」


情報屋の言葉を聞いたマリーは報酬がもらえるかも、と思ってわくわくした。

マリーのキラキラした目に見つめられた情報屋は苦笑しながら、銀貨を1枚手渡す。


「ありがとうございます!!」


マリーは笑顔で銀貨を受け取り、アイテムボックスに収納した。


「それで、子狼王との戦いの際に私がテイムを試みたのですが『条件を満たしていません』という表示が出たのです」


「条件? 私は普通にテイムを発動したら、ぐわっと魔力が減って死に戻りしたんですけど……」


マリーは首を傾げてそう言った後、真珠を見た。


「真珠はなんで私のテイムモンスターになってくれたの?」


「きゅうん……?」


マリーの言葉に真珠は首を傾げた。


「真珠に聞いてもわかんないだろ」


ウェインが呆れ顔で突っ込む。


「それで、マリーさんが真珠くんをテイムした時のステータスを教えて頂きたいのです。マリーさんのステータスを鑑定させていただけますか?」


情報屋の言葉にマリーは戸惑う。

『アルカディアオンライン』ではステータス画面はプレイヤー本人とサポートAIしか確認できないと聞いている。

それなのに、自分以外のプレイヤーにステータスを知られても大丈夫なのだろうか。


「報酬は金貨2枚でいかがでしょう?」


報酬の提示を受けて、マリーの心は『ステータスを見せても良い』に一気に傾いた。


「もう一声……っ」


マリーは初めて価格交渉を試みた。情報屋は重々しく肯いて口を開く。


「では、金貨3枚をお支払いします」


情報屋が提示した金額は適正だろうか。判断に迷ったマリーはウェインに視線を向けた。


「ステータスは種族レベルが上がったり、スキルを取得するたびに少しずつ変わるから、金貨3枚は妥当じゃないか」


ウェインの言葉に納得したマリーは情報屋に肯いた。


「金貨3枚でお願いします」


「ではお支払いしますね」


マリーは情報屋から金貨3枚を受け取り、アイテムボックスに収納した。


「鑑定」


情報屋はスキルを発動させて、マリーをじっと見つめる。

マリーは身動きをしないように身体を固くして、息を詰めた。

情報屋は黒革の手帳に万年筆で、マリーの情報を書き写している。

ウェインはマリーのステータスが目に入らないように、マリーと情報屋から距離を取った。


「ウェインも見てもいいよ。私のステータス」


「いいのか?」


「うん。テイム成功の条件、皆で考えた方が正解にたどり着けるかもしれないし」


「わうんっ」


「情報屋さん。いいですよね?」


「ええ。構いませんよ。マリーさん。現在のステータスからテイム当時のステータスに修正して頂けますか?」


「はい。ええと、料理スキルは取ってなかったです。テイムスキルは取ったばかりでスキルレベル1でした」


情報屋はマリーの言葉を聞き、手帳に記載したステータス内容を修正した。


「あとはそんなに変わっていないと思います。MPがちょっと増えたと思うんですけど……」


「改めて見ると、マリーはすげえ弱いな」


「だってゲームを始めてから一回も戦ってないから」


しみじみとしてウェインの言葉に、マリーは唇を尖らせた。


「マリーさんは一度も戦っていない。レイドボスバトルにも参加していない。それが鍵かもしれないですね」


「戦わなかったから、真珠のテイムが成功したんですか?」


「マリーさんと、ウェインくんと私の違いは今はそれくらいしか思いつきません」


「種族レベル1のプレイヤーに限りテイム可能っていうのは考えにくいよな。主人公キャラの初期レベルが1じゃないことも多いし」


「『アルカディアオンライン』のゲーム制作スタッフはプレイヤーを理不尽に痛めつけることに喜びを感じるタイプではないと思います」


マリーたちは真珠のテイムが成功した理由や子狼王のテイムが成功しなかった理由を話し合ったが結論は出なかった。


「私はレベル1の新規プレイヤーを集めて子狼王のテイムに協力してもらうことにします。話し合いはこの辺りで終了しましょう」


情報屋の言葉で、マリーたちは解散することになった。

マリーと真珠、ウェインは情報屋のルームを出て白い階段を上り始めた。


***


マリー・エドワーズが情報を売って受け取った対価 金貨11枚/銀貨22枚/銅貨 7枚


※ 真珠の分 合計銀貨2枚



若葉月5日 朝(2時35分)=5月4日 10:35

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