第六十一話 マリー・エドワーズはゴミ拾いに夢中になってはぐれる



マリーはウェインと真珠、情報屋と連れ立って西門を抜けて西の森を目指して歩く。夜は兵士に止められたけれど、今回はスムーズに通してもらえた。保護者的な存在がいると便利だとマリーは思う。

情報屋はアイテムボックスから取り出したトレンチコートを羽織り、ベレー帽を被っている。

情報屋を見てひそひそと話しているプレイヤーがいて気になる。


「情報屋さんって有名人?」


マリーは隣を歩くウェインに問い掛ける。ウェインは肩を竦めて口を開いた。


「まあな。ファンタジーな世界観から完全に浮いてる恰好してるし」


「確かに……」


「わぅん……」


「この恰好をしているとプレイヤーもNPCも面白がって話しかけてくれるんです」


「いや、それ完全にお前の趣味だろ……」


情報屋の言葉にあきれ顔のウェインが突っ込んだ。


西の森に到着した。入り口の薬草は採取され尽くしてしまっている。


「ヒール草もマナ草も全然ないね。薬草系のリポップって時間どれくらいかかるの?」


「俺は薬草とかあんまり興味ないから知らない」


「情報量として銅貨5枚を頂戴します」


「情報、いらないです……」


「くぅん……」


ちょっとした情報を聞いただけでお金を払っていたら、借金を返すどころか借金が増えてしまいそうだ。

悠里は無料でなんでも調べることができるリアルのネット検索機能に心から感謝した。

薬草が取り尽くされたせいなのか、西の森の奥から戻ってくるNPCとプレイヤーが多い。だが、それでも西の森に向かうプレイヤーはマリーたちの他にもいる。

一部のプレイヤーは情報屋の動向を気にしているようだ。


マリーたちは遠巻きに囲むプレイヤーたちを引き連れて西の森の最奥、霧が覆う場所に着いた。


「マリー。初級魔力回復薬いる?」


「まだあとちょっとだけ残ってるから大丈夫」


マリーはウェインに答えてアイテムボックスから飲み残していた初級魔力回復薬を取り出した。アイテムボックスの時間経過無しの仕様は本当に有用だと思う。

マリーは初級魔力回復薬の蓋を開けて、蓋を採取袋に入れた。

蓋を開けた初級魔力回復薬を右手に持ち、魔力視を発動させた。


「穴、あった。魔力視OFF」


魔力視OFFにしたマリーは穴の前に移動して、手に持っていた初級魔力回復薬を飲み干す。空になった瓶はアイテムボックスに収納した。採取袋に入れていた蓋も収納する。ポイ捨てはしない。

MPを回復したマリーは四つん這いになる。真珠とウェイン、情報屋がマリーに続いて四つん這いになると周囲を取り囲んでいるプレイヤーからどよめきの声があがった。


「行きますっ。魔力視ON!!」


魔力視を発動させたマリーは高速ハイハイをしながら、穴の中に突撃した。

真珠、ウェイン、情報屋はマリーの後に続く。


高速ハイハイで進むこと10秒。マリーは無事に霧を抜けた。


「魔力視OFF」


マリーは魔力視を切り、立ち上がる。ゴミが散乱している『孤王の領域』に無事たどりつけたようだ。

マリーの後ろから真珠、ウェイン、情報屋が姿を現す。マリーたちを取り囲んでいたプレイヤーは着いてきていない。


「ここまでは、マリーさんの情報が正しいと証明されましたね」


「よかったです」


「ここからは真珠くんに協力してもらいたいのですが。協力してくれるのであれば、銀貨1枚をお支払いします」


「どうする? 真珠」


「わうんっ!!」


真珠は凛々しい表情で尻尾をぴんと立て、勇ましく吠えた。


「引き受けるそうです」


マリーはマスターとしての勘を信じて情報屋に告げ、情報屋は銀貨1枚をマリーに渡した。マリーは真珠の代理として銀貨を受け取り、アイテムボックスに収納する。


「それでは真珠くん。モンスターの匂いを嗅いで、私たちを案内してもらえますか?」


「わんっ!!」


情報屋の依頼を受けた真珠は地面に鼻を寄せて匂いを嗅ぐ。


「真珠。かっこいい。警察犬にもなれそう」


マリーは真珠の雄姿を見つめながら、身を屈めてゴミを拾う。

少しでも速く走れるように掃除のスキルレベルを上げてAGI値を増やしたい。

真珠はモンスターの匂いを嗅ぎつけたのか、歩き始めた。

真珠の後を情報屋とウェインが続き、マリーは最後尾をゴミを拾いながら歩く。


草原からまばらな木が生えている場所に入る。ゴミ拾いに夢中になってしまったマリーはいつの間にかはぐれていた。

遠くから、ざわめく声と足音が聞こえる。


「いた!! 四つん這いの幼女!!」


迷子になってしまったものは仕方が無いと諦めてゴミ拾いにいそしんでいたマリーに人差し指を突きつけたのは金髪にキラキラしい鎧を着こんだプレイヤーの男だった。


「パーティーメンバーには霧の中を四つん這いで進むとかあり得ないとか羞恥プレイとか散々言われたし森の中を四つん這いで進む幼女とか、幻覚見たんじゃないとか言われたけど!! いた!! 幼女!!」


変な人だ。関わらないでおこう。マリーはゴミ拾いを続ける。


「アーサー。一人で突っ走らないでよ」


「そうだよ。幼女がどうのこうの叫んで走って行くのとか変態だから」


エルフの美女とドワーフの男が現れ、金髪男に言った。二人とも腕輪をしている。プレイヤーだ。

マリーは新たに出現したプレイヤーとも関わりたくないので静かにゴミを拾い続けた。


「ほら!! ここにいるから、幼女!!」


「本当だわ。幼女がゴミ拾いしてる」


「なんで幼女が一人で? プレイヤーなのか……?」


無視。スルー。触らぬ神に祟りなし。

うろ覚えの般若心境を心の中で唱えながら、マリーは静かに距離を取りつつ、ゴミを拾う。


「わうーっ!!」


「真珠……?」


マリーはゴミ拾いをやめて立ち上がる。矢のように駆けて来た真珠はマリーに飛びついた。マリーは真珠の勢いを受け止めきれず尻もちをつく。


「わうーっ」


「真珠。ごめんね。私、ゴミ拾いに夢中になっちゃって迷子になったみたいで。心配して来てくれたんだね」


「きゅうん……」


マリーは真珠を抱きしめ、真珠はマリーに頬をすり寄せる。


「なんか目の前で幼女と子犬の感動的っぽい再会が……」


「邪魔したら悪いわよ。そっとしておいてあげましょうよ」


「行くぞ。アーサー」


金髪男とエルフの美女、ドワーフのプレイヤーは立ち去った。

彼らと入れ替わるようにウェインと情報屋が姿を現す。


「マリー。ここにいたのか。真珠が、マリーがいないことに気づいてすごく必死に探していたんだぞ」


「ごめんね。ウェイン。ゴミ拾いに夢中になってたら迷子になっちゃったみたいで。モンスターには会えたの?」


「真珠が見つけてくれた。でもそいつ、俺たちを見て襲い掛かってきてさ。真珠はマリーがいないことに気づいて探しに行ったから、俺と情報屋でモンスターを倒した」


「私たちが出会ったモンスターは真珠くんとは別の種類でしたよ。鑑定でステータスを確認したので間違いないです」


「なんか、俺たち以外のプレイヤーの姿もちらほら見かけるし、もう帰る? マリーは変なプレイヤーに絡まれたりしたら嫌だろ?」


変なプレイヤーに絡まれ未遂でしたと心の中でマリーは呟いた。

真珠が来てくれて皆と合流できてよかった。


「魔力枯渇で死に戻りましょうか。実はマリーさんにご相談があるんです。報酬は支払いますよ」


「やります!! 頑張ります!!」


「俺も付き合うよ」


「わんわんっ!!」


情報屋さんからゲーム内通貨をたくさん貰えるように頑張ろう!!

そう思いながらマリーは魔力操作をMPが0になるまで発動させて魔力枯渇状態に陥り、教会に死に戻った……。


***


マリー・エドワーズのスキル


掃除 レベル1( 5/100)→ 掃除 レベル1( 37/100)


※ 真珠の分 前回分との合計銀貨2枚


若葉月5日 朝(2時10分)=5月4日 10:10

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