第六十話 マリー・エドワーズは情報の検証に向かう
情報屋はマリーから聞いた情報をまとめ終えて万年筆を置いた。
そして彼は顔を上げて、マリーに微笑む。
「お待たせしました。マリーさん。話の続きをお願いします」
情報屋に促されたマリーは霧の穴を抜けてレイドボスのバトルフィールドにたどり着いたと話した。
「レイドボスのバトルフィールドは『こおうのりょういき』という名前だとサポートAIさんに聞きました」
マリーの言葉に情報屋は眉をひそめた。
「サポートAIがプレイヤーに攻略情報を漏らしたのですか?」
「私、転送の間でバグ報告をしたんです。真珠と出会った場所を西の森の最奥だと思ったので、セーフティーゾーンなのにモンスターと出会うのはおかしいからバグかもしれないって考えたんです」
「バグ報告をすればサポートAIからゲームの攻略情報を引き出せることがある。これは有益な情報です。金貨1枚をお支払いします」
「ありがとうございます!!」
また所持金が増えた!! マリーは大喜びした。情報屋から金貨1枚を受け取りアイテムボックスに収納する。情報屋はマリーとウェインを見つめて、身を乗り出した。
「『バグ報告をすればサポートAIからゲームの攻略情報を引き出せることがある』というのは我々三人の秘密にしませんか?」
「賛成。もう知っているプレイヤーもいるかもしれないし、これから気づくプレイヤーもいるだろうけど積極的に広めるメリットはないと思う」
情報屋とウェインの言葉を聞いたマリーは肯いた。
「情報屋さんとウェインがそうした方がいいっていうなら私も賛成」
「わぅわうん」
「全員の意見が一致したようでよかったです。ではこの情報は秘匿で」
情報屋の言葉に、マリーとウェインと真珠はそれぞれ肯いた。
『バグ報告をすればサポートAIからゲームの攻略情報を引き出せることがある』という情報の取り扱いを決めたので、マリーは話を始める。
「『こおうのりょういき』はすごく広かったんですけどゴミだらけで」
「ガラスの破片や瓶の蓋が散乱していて刀身が折れた剣や穂先がない槍が転がってた。プレイヤーがゴミを捨てて放置したんだ。俺もゴミを捨てた一人だからちょっと罪悪感がある」
「マリーの初期スキルに『掃除』っていうのがあって、だから私はゴミをアイテムボックスに収納して掃除をしてみようかなって思いついたんです」
「『掃除』スキルはプレイヤー憑依後には、スキルレベルが1上がるごとにAGIの値が1上昇するってマリーから聞いて俺も取ったんだ。AGIの値を上げたかったからさ」
マリーとウェインが交互に話を進める。情報屋は話を聞きながら肯いた。
「家事スキルはNPC用のスキルかと思っていたのでチェックしていませんでした。AGIの値を上げたいプレイヤーには有用なスキルのようですね。マリーさんとウェインくんに銅貨を5枚ずつ差し上げます」
「ありがとうございます」
「サンキュ。あのさ、ゴミって錬金術師とか鍛冶師のプレイヤーには喜ばれるんじゃないか?」
「そうですね。ではその情報に追加で銅貨2枚ずつ支払いましょう」
マリーとウェインは情報屋からそれぞれ銅貨7枚を貰い、アイテムボックスに収納した。
「ウェインのおかげで貰える情報料が増えたよ。ありがとう」
「こっちも臨時収入助かるから、お互いさまってことで」
マリーとウェインは視線を合わせて微笑む。真珠はそんな二人を見て嬉しそうに尻尾を振った。
マリーは情報屋に向き直って口を開く。
「えっと、それで、私とウェインはゴミ拾いをすることにして、二手に別れたんです。その時に私は真珠と会いました」
「わんわんっ」
「真珠くんはマリーさんに攻撃を仕掛けなかったのですか?」
「はい。真珠は出会った時からいい子でした」
「わぅん」
マリーは真珠の頭を撫で、真珠は気持ちがよさそうに青い目を細める。
「『白狼』はノンアクティブモンスターなのか……?」
情報屋が口の中で何か呟いたが、マリーには聞き取れない。
「マリーさん。話を続けてください」
情報屋に促され、マリーは『テイム』のスキルを取り、真珠をテイムしたと話した。
「テイムしたら、魔力枯渇状態になってしまって教会に死に戻ったんです。そうしたら、真珠も一緒にいたんだよね」
「わんわんっ」
「あの時は焦ったよ。セーフティーゾーンだと思ってた場所でマリーがいきなり死んでるからさ」
「びっくりさせてごめんね。ウェイン」
「くぅん……」
真珠はしゅんとして俯く。ウェインは苦笑して真珠の頭を撫でた。
「責めてるわけじゃないよ。真珠」
「わぅん」
「とても興味深い情報です。銀貨1枚支払いますね」
「ありがとうございます」
マリーは情報屋から銀貨1枚を受け取りアイテムボックスに収納する。
「これから西の森に検証に行きたいと思うのですが、マリーさんとウェインくん、真珠くんにお付き合い頂きたいのです。付き合って頂けるのであれば、それぞれに銀貨1枚を支払います」
「真珠にも貰えるんですか?」
「はい。真珠くんがいてくれるとすごく助かります」
「ありがとうございます。よかったね。真珠」
「わんっ」
「本当、臨時収入助かる」
マリーは自分と真珠の分の銀貨2枚を受け取り、ウェインは銀貨1枚を受け取った。そしてそれぞれのアイテムボックスに収納する。
そして三人と一匹はマリーの情報を検証するために西の森へ向かった。
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