第五十九話 マリー・エドワーズは霧の穴の情報を売る



「マリーさんは真珠くんをどのようにしてテイムしたのでしょう? ご教授いただけたら、対価をお支払い致します」


「ごきょうじゅ?」


「わう?」


「教えてくれたら、金を払うってことだよ」


情報屋が言った『ご教授』の意味がわからずに首を傾げたマリーと真珠に、ウェインが言う。


「でも私、普通にテイムしただけだよ」


「状況を教えてください」


「あの、それは私が売りたい情報に関わってくることなんですけど……」


「マリーはレイドボス『狼王』と戦ったバトルフィールドの入り口を見つけたんだ」


ウェインがマリーの言葉を補足する。情報屋は眉を上げ、口を開いた。


「西の森の霧を突破する方法を見つけたということですか。それは興味深い。ぜひ、話してください。対価は話を伺ってからお支払いします」


マリーはウェインに視線を向けた。ウェインはマリーに肯く。

真珠はマリーにすり寄った。マリーは真珠の背中を撫でながら、話を始めた。


「私、ワールドクエストには参加していたんですけどレイドボスバトルには一回も参加していなくて。だから、すごく広いっていうレイドボスとのバトルフィールドを見てみたかったんです」


「ワールドクエストには参加しているのにバトルには不参加というのは珍しいプレイスタイルですね」


「私、NPCの家族と一緒に逃げていて……。領主館の巨大魔方陣起動イベントには参加したんですけど」


「エリアプロテクトが発動したのはマリーのおかげなんだ」


ウェインの言葉を聞いた情報屋が首を傾げる。


「巨大魔方陣イベント参加の呼びかけはウェインくんが行ったのですよね?」


「俺はマリーに聞いただけ。マリーはその時、俺以外のフレンドがいなかったから、俺が代わりにイベント参加の呼びかけをしたんだ」


「そうだったんですか。ワールドクエストの報酬『港町アヴィラ領主の感謝状』が取得可能になったのはマリーさんのおかげなのですね。ありがとうございます。感謝の気持ちとして銀貨1枚を受け取ってください」


「ありがとうございます……!!」


マリーは情報屋から銀貨1枚を受け取りながら『情けは人のためならず』という言葉を噛み締めた。善いことをして自分に嬉しいことが巡ってくるのは気分が上がる。

マリーは話を続けるために口を開いた。


「えっと、だから西の森の最奥に連れて行ってもらったんです。ウェインに」


「西の森は今、セーフティーゾーンでモンスターが出ないから、森林浴とかピクニックみたいだったよな」


「うん。それで、西の森の最奥に行ったんですけど霧が掛かっていて……」


「霧を通過するとプレイヤーは西の森の入り口に戻される。どのようにして入り口に戻されることなく霧を抜けたのでしょう?」


情報屋に促され、マリーは考えながら口を開く。


「ウェインに霧を抜けたら入り口に戻されるって教えてもらったんですけど、せっかくここまで来たから記念に霧に触りたいなって思って、触ったんです」


「『霧に触る』ですか。興味深い行動ですね。銀貨を1枚お支払いします」


「ありがとうございます!!」


マリーは情報屋から銀貨を受け取ってアイテムボックスに収納した。


「えっと、続きを話しますね。霧を触ったら温かいと思ったんです」


「温かい。どのくらいの温度でしょう?」


「初めてMP最大値を上げて、乾燥したマナ草を食べた時に、おへその下がほのかに温かくなったような気がして。それと同じように温かいと感じたんです」


「俺は初めてMP最大値を上げたこととか、もうあんまり覚えてない」


「私もです。マリーさんは繊細な感性をお持ちで、記憶力もいいんですね」


繊細な感性!! 記憶力がいい!! そんなこと、初めて言われた気がする。

悠里は浮かれそうになり、今はマリーのロールプレイ中だと気を引き締めた。


「えっと、褒めてもらって嬉しいです。話を続けますね」


「その前に『霧に温度がある』という情報は貴重なので銀貨5枚をお支払いしますね」


「ありがとうございます!!」


マリーは情報屋から銀貨を受け取ってアイテムボックスに収納した。

どんどんお金が増えて嬉しい。

マリーは情報屋に、霧が魔力に似た温かさだと気づいて『魔力視』で霧を見てみようと思ったことを話した。


「死にスキルと言われている『魔力視』の活用ですか。興味深い情報ですね」


「俺はマリーに言われるまで霧は『ここから先は行けない。入り口に戻る』という制限を可視可したものだと思ってたよ」


「確かに。それも合わせて銀貨7枚をお支払いします」


「ありがとうございます!! 嬉しいね。真珠っ」


「わんわんっ」


マリーは情報屋から銀貨を受け取ってアイテムボックスに収納した。

この調子で一千万リズを貯めて、借金を返したい。マリーは気合を入れた。


「それで『魔力視』で霧を見たらうっすらと光を放っているように見えて。それから霧の一部に穴が開いているのを見つけたんです」


マリーは穴の大きさはハイハイして通れるか通れないかっていうくらいの大きさだと説明した。


「だから、今まで誰も穴に気づいたプレイヤーはいなかったんだと思う。俺だってハイハイして霧を通り抜けようなんて思わないよ」


「確かに……」


ウェインの言葉を聞いて、情報屋が肯く。


「大変に貴重な情報です。金貨を1枚お支払いします」


大盤振る舞いの情報屋に、マリーは真珠を抱きしめて喜んだ。

そして情報屋から金貨を受け取ってアイテムボックスに収納する。


「それで、私、『魔力視』を使いながらハイハイして穴を通り抜けたんです」


「俺もマリーの後に続いたら霧を抜けられた。『魔力視』は使ってない」


「それは有益な情報ですね。一人が穴を見つければ、他の者は後に続くだけでいい。マリーさんとウェインくんに銀貨5枚ずつ支払います」


「やったー!!」


「俺もいいのか?」


「はい。ウェインくんの検証があってこその情報なので」


「サンキュ。情報屋。正直、金はいくらあっても困らないから助かる」


マリーとウェインはそれぞれに、情報屋から銀貨5枚を受け取ってアイテムボックスに収納した。


「ここまでの情報をまとめますので、少しお待ちいただけますか?」


「わかりました」


「いいよ」


「わおんっ」


「ありがとうございます」


情報屋が黒革の手帳に万年筆で書き込んでいる間に、マリーはこれまで得た報酬を数えることにした。


「金貨7枚と銀貨19枚も貰ってる……!! リズにすると……」


「700000+19000で719000だな」


「すごいっ。ウェインは計算が早いね」


「いや。普通だろ」


「719000リズも稼げたなんてすごい!! でも一千万リズには全然届かないね……」


「だな」


「くぅん」


マリーと真珠は肩を落とし、ウェインは苦笑した。


***


マリー・エドワーズが情報を売って受け取った対価 金貨 7枚/銀貨19枚


若葉月5日 早朝(1時30分)=5月4日 9:30




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る