第五十五話 マリー・エドワーズはフレンチトースト作りに挫折する
マリーと真珠は祖父に抱かれて『銀のうさぎ亭』に戻り、母親に迎えられた。お腹が空いていないか尋ねられたので、眠くなったと言って二階に逃げることにした。
「お祖父ちゃん。狩人ギルドに連れて行ってくれてありがとう」
「わうわぉん」
マリーと真珠は祖父に床に下ろしてもらって揃って頭を下げた。
祖父はマリーと真珠の頭を撫でて微笑み、それから大きな口を開けてあくびをした。
「俺は少し寝る。仕事を任せてもいいか?」
「ええ。ジョンも起きているので大丈夫です。さっき、お義母さんも休みましたよ」
「そうか。じゃあ、後は頼む」
そう言って祖父は階段を上がっていく。マリーと真珠も祖父の後に続いた。
マリーと真珠は二階のベッドのある部屋に入り、扉を閉める。
「私と真珠の二人だけだから、のんびりできるね」
「わんっ」
マリーは真珠を抱いてベッドまで歩き、真珠をベッドの上に乗せた。
そして自分も真珠の隣に座る。
「まずはマリーの今のステータスを確認しよう。ステータス」
マリーの目の前にステータス画面が現れた。
♦
マリー・エドワーズ
女性/5歳
高橋悠里の依代
状態:正常
種族:ヒューマン/レベル1(567/1000)
能力値
HP 8/10
MP 21/21
STR 3
DEF 1
INT 5
DEX 4
AGI 3
CHA 8
LUC 20
ユニークスキル
ステータス閲覧 スキル習得 不滅の恩寵 アイテムボックス
レアスキル
リープ ログアウト クローズ
コモンスキル
掃除 レベル1( 5/100) テイム レベル1(80/100) 接客 レベル1(15/100) 魔力視 レベル1(35/100) 魔力操作 レベル2(20/200)
所持金 0リズ
スキルポイント 140P
行動履歴確認 転送の間 スキル習得 アイテムボックス 各種図鑑 プレイヤーレベル/善行値確認 フレンド機能 クエスト確認 ゆるふわ機能
♦
「あれ? LUCが上がってない。あっ。バッジをつけてないから……!!」
マリーはステータス画面を消してベッドから下りた。そして自分の机に向かう。
「バッジあった。よかった」
マリーは机の上にあった勇気のバッジと採取袋をアイテムボックスに収納する。
「わう?」
「真珠。ごめんね。びっくりさせちゃった?」
「わおん」
マリーは自分のベッドに戻り、腰掛ける。真珠がマリーにすり寄って甘えた。マリーは真珠の滑らかな毛並みを撫でる。
「私がステータス確認してると、真珠はつまらないよね。よし。確認は後にする。フレンチトースト大作戦を決行することにするっ」
「わんっ」
「私、着替えるから真珠はちょっと待っててね」
「わうっ」
マリーは寝巻を脱いで丸襟のシャツにキュロットスカートを履いた。そして手櫛で髪を整える。
脱いだ寝巻は畳んでベッドに置いた。
「着替え、終わりっ。真珠。一階に行こうね」
「わぉんっ」
真珠は尻尾を振って鳴き、ベッドから軽やかに飛び下りた。
マリーは真珠と共に部屋を出て一階に向かう。
一階に到着した。カウンターにいた母親はマリーと真珠を見て瞬く。
「マリー。寝るんじゃなかったの?」
「眠くなくなっちゃったの。だから真珠と起きてきたの」
「わんっ」
「そうなの。じゃあ、ご飯を食べる?」
「お母さん。私、パンをすごくおいしくする方法を思いついたの」
マリーは真剣な顔で、重々しく言った。
「牛乳と卵と砂糖を使うだけで、パンがすごくおいしくなるのよ。砂糖がなければ蜂蜜でもいいの」
「ギュウニュウ?」
マリーの言葉を聞いた母親が首を傾げた。
「木のコップに入れて私に出してくれたでしょう? 白くて……白い飲み物」
白くてぬるいと言いそうになり、マリーは言い直す。
「ああ。モーモーミルクね」
「もーもーみるく」
日本語を話し、日本式の文化が根付くこの世界になんで学校給食の定番である牛乳が存在しないのか。
モーモーミルクって、ネーミングセンス……。
「卵と砂糖は貴重なものだから、マリーに使わせてあげられないわ」
『アルカディアオンライン』では卵と砂糖は貴重な設定らしい。
リアル日本のスーパーでは卵や砂糖は気軽に買えるのに。
マリーはがっかりしてため息を吐いた。真珠が心配そうに鳴き、マリーの足に身体をすり寄せる。
メシマズ事情を解決するためにも、先立つものはお金のようだ。
「フォレストウルフとシルバーフォレストウルフの肉ならたくさんあるから、マリーにも分けてあげられるけど……」
「お肉をおいしくする方法はまだ思いついてないの」
「そう。マリーが料理に興味を持つのはいいことね。女の子ですものね」
母親はそう言って微笑んだ。『アルカディアオンライン』では女の子が料理をする的価値観が蔓延しているのだろうか。
男の子でも料理好きはいるし、女の子でも料理をしない子もいるのになと悠里は思う。
「お母さん。真珠と一緒に家の周りを散歩してきてもいい? 眠くないから暇なの」
「きゅうん」
「遠くに行かないって約束できる?」
「うんっ」
「わんっ」
「じゃあ、シンジュと仲良く散歩していらっしゃい」
「はあい」
「わおんっ」
母親から外出の許可を得たマリーは、真珠と共に外に出た。
***
若葉月4日 真夜中(6時40分)=5月4日 8:40
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます