第五十一話 高橋悠里は子犬の名前を考え、フレンチトーストを食べる
コンビニに到着した悠里は自動ドアの側にあるオレンジ色の買い物かごを左手に掛けて、消毒液で手を消毒した。
お店に入る時には忘れずに手を消毒するけれど、出る時には忘れることが多い。気をつけなくちゃと思う。
「牛乳とプリン。あと、何を買おうかな」
悠里は商品棚を見ながら歩く。早朝のコンビニは飲み物だけを買ったりタバコを買ったりする客が多いようだ。
店内を買い物かごを持ってのんびりとうろうろするのは悠里だけで他の客は目当ての商品を手に持ってレジに並ぶ。
お菓子の棚を見終えた悠里はカップ麺の棚に移動した。
「紅蓮麺の新作が出てる」
陳列棚の二段目が真っ赤なパッケージのカップ麺で埋め尽くされている。
悠里は『真・旨辛紅蓮麺』と書かれたカップ麺を手に取った。
「これ買おう」
悠里は『真・旨辛紅蓮麺』を買い物かごに入れ、プリンと牛乳を買い物かごに入れた。買う物はこれで全部。買い忘れはない。
レジに並ぶ列の最後尾に立ち、悠里は足元に視線を向けた。
間隔をあける印より一歩前に立っていたので、一歩後ろに下がる。
「……」
順番を待つ間に悠里は子犬の名前を考えることにした。
『真・旨辛紅蓮麺』のパッケージの『真』という字はかっこよかった。『真実』の真。いい。名前に入れたい。
真の字がついて、白か青を現す言葉。何かないかな。
子犬の名前を思いつかないまま、悠里の順番が来た。
「チャージお願いします」
コンビニのカードと千円札をトレイに置き、悠里は言った。
コンビニの店員が処理をしてくれて、確認ボタンをタップする。
店員は買い物かごの中の商品のバーコードを手早く読み取り、プラスチックのスプーンと割りばしを出す。
祖母は割りばし以外は受け取らないけれど、母親はプラスチックのスプーンを嬉しいと思う派だ。
悠里はコンビニのカードで会計をして、自分で商品をエコバックに詰めた。プラスチックのスプーンと割りばしも忘れずに入れる。
商品を入れ終えたエコバックを左腕に掛け、悠里は消毒液で手を消毒する。そして、コンビニを出た。
「真の字がついて、白色。何かないかな……」
自宅に向かって歩きながら、悠里は考える。
男の子でも女の子でも良い名前。
「……あ」
真珠。真珠というのはどうだろう。『パール』ではなく『真珠』がいい。……あの子、名前を気に入ってくれるかな。
朝ご飯を食べたら、ゲームにログインして子犬に名前をつけよう。
……自宅が見えて来た。悠里は走り出す。
牛乳が重いけれど心は軽やかだ。
憧れの先輩に会えて、憧れの先輩と出かける約束をして、それから子犬の名前が決まった。
早起きして、散歩に出てよかったと悠里は思った。
5月4日の高橋家の朝食は、フレンチトーストと塩コショウで味付けをしたスクランブルエッグ。それからトマトの輪切りに玉ねぎのみじん切りと細切りにした紫蘇を乗せ、ポン酢を掛けたものだった。
飲み物は、祖母と悠里が紅茶でその他の家族はコーヒーだ。
「お母さん。メープルシロップある?」
フレンチトーストは砂糖で味つけをしているので、そのまま食べてもおいしいけれど悠里はメープルシロップをかけて食べるのが好きだ。
「ごめん。メープルシロップ切らしているのよ。蜂蜜でもいい?」
「うん」
母親は席を立ち、食器棚に置いてあった蜂蜜の瓶を取り出す。
悠里は蜂蜜をすくうスプーンを取りにキッチンに向かった。
銀色のスプーンを引き出しから取り出してダイニングに戻る。
テーブルには母親が出してくれた蜂蜜の瓶が置いてあった。
悠里は瓶の蓋を開け、スプーンでたっぷりと蜂蜜をすくいフレンチトーストにかけた。
「悠里。お祖母ちゃんにも蜂蜜の瓶を貸して」
「お祖母ちゃんもフレンチトーストに蜂蜜をかけるの? 珍しいね」
「紅茶に入れようと思って」
「それ、おいしそう。私も今度やろう」
悠里はそう言いながら、蜂蜜の瓶とスプーンを祖母に渡した。
そして、蜂蜜をたっぷりとかけたフレンチトーストをナイフとフォークで切り分けて口に運ぶ。
……甘くておいしい!!
卵と牛乳と砂糖、それからバターだけでこんなにパンがおいしくなるなんて、フレンチトーストを最初に思いついた人とそれを世に広めてくれた人に感謝したい。
あと、作ってくれた母親にも感謝しよう。
「お母さん。フレンチトーストおいしい。ありがとう」
「どういたしまして」
悠里の言葉に母親が笑顔になる。
フレンチトーストを二口食べて、悠里は気づいた。
『アルカディアオンライン』でフレンチトーストを作れる気がする。
パサパサでまずい黒パンにぬるい牛乳。そして蜂蜜飴。
蜂蜜飴があるということは蜂蜜があるということだ。
牛乳があればバターが作れるはず。
おいしいフレンチトーストを作ることができたら『銀のうさぎ亭』のメシマズをおいしい方向に変えることができるかもしれない……!!
悠里は自分の思いつきにわくわくしながら、朝ご飯を食べ進めた。
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