第四十七話 マリー・エドワーズはテイムを試みる



高速ハイハイで進むこと10秒。白い霧に覆われていたマリーの視界が明るく開けた。


「魔力視OFF」


マリーは魔力視を切った後、立ち上がった。

『アルカディアオンライン』は痛覚設定が0パーセントなので高速ハイハイをしても手足や膝は痛まない。


「すごく広い……!!」


目の前に広がる草原と点在する木々。サポートAIはレイドボスバトルのフィールドには100万人を収容可能と言っていた。

だからたぶん、ここが、マリーが参加できなかったレイドボス『狼王』との戦いの場になのだろう。


「うわっ。マジでレイドボスバトルフィールドに出た。すげえ」


マリーに続いてウェインが白い霧の中から這い出て、目を見開く。


「やっぱりここってレイドボスバトルフィールドなんだ」


「うん。プレイヤーとモンスターと、レイドボスがいないとめっちゃ広いな……!!」


「私もレイドボス見てみたかったなあ。できることなら一撃入れてみたかった。まだ種族レベル1だけど」


「マジか。マリー。まだ種族レベル1なのか」


「うん。だって、私1回もモンスターと戦ってないもの。言わなかったっけ?」


「たぶん聞いてない」


「だから、西の森がセーフティーゾーンになってよかった。そうじゃなかったら、この場所には来られなかったかもしれない。……でも」


マリーは周囲を見渡して、眉をひそめた。


「よく見たらこの場所、汚いね」


草原の上にはガラスの破片や瓶の蓋、刀身が折れた剣や穂先がない槍などが転がっている。


「レイドボスバトルはすさまじい激闘だったからな。プレイヤーは皆、回復薬を飲んでは瓶を捨て、耐久値がなくなるまで武器を使っては捨て……という感じだった。俺も5つくらい壊れた武器を捨てたと思う」


「そうなんだ。ゲームの仕様でゴミとか消えたらいいのにね。……あ。そうだ。私、ちょっとだけ掃除とかしてみようかな」


「掃除?」


「そう。マリーの初期スキルに『掃除』っていうのがあったの」


「へえ。掃除がうまくなるスキル?」


「そうみたい。プレイヤー憑依後には、スキルレベルが1上がるごとにAGIの値が1上昇するって書いてあったよ」


「マジか!! AGIの値を上げたいから俺も取ろう。家事系スキルとか盲点だったなあ。ステータス」


ウェインがステータス画面を操作している。マリーは先に掃除を始めることにした。


「ウェイン。私、右手の方に進むから、左手の方をよろしくね」


広いフィールドだから、適当に好きな場所のゴミを拾ってもいいかと思ったのだが、一応、分担する場所を告げ、マリーは落ちているガラス瓶や壊れた武器を腕輪に触れさせ、収納していく。

アイテムボックスが容量無制限、時間経過無しの仕様で本当に助かる。

アイテムボックスの容量に制限があったり、時間経過がある仕様だったら、マリーはこの場所を掃除しようとは思わなかっただろう。


「ガラスの欠片とか多いなあ……」


マリーは手を切らないように気をつけながら、慎重にガラスの破片を拾った。『アルカディアオンライン』は痛覚設定が0パーセントとはいえ、手を切ればHPが減る。たぶん。


「ゴミがない状態で、この場所に来たかったなあ……」


「わぉん」


「ん?」


ガラスの破片を腕輪に触れさせ、アイテムボックスに収納していると背中から犬の鳴き声が聞こえた。マリーは何気なく振り返り、固まる。

モンスターが出た……っ!?


「なんで? 西の森はセーフティーゾーンじゃないの……?」


「わう?」


目の前の白い小犬は、青い目をきらめかせてマリーを見つめている。


「あれ? じゃあ、えっと、モンスターじゃないの?」


「くぅーん……」


「君、モンスターじゃないの?」


マリーは白い小犬に問い掛ける。子犬は首を傾げた。


「可愛い……」


『ゆるふわ機能』はOFFにしているが、それでも目の前の子犬は十分に可愛かった。

見つめあっていても、子犬がマリーを攻撃する様子はない。

マリーは子犬を警戒するのをやめた。


「そうだ。テイムできるかな? ステータス」


マリーはステータス画面のスキル習得をタップして『テイム』を検索した。


「『テイム』あった!!」


マリーはコモンスキル『テイム』の説明文に目を通す。





テイム【習得要SP10/未習得】


コモンスキル/魔法スキル。

動物やモンスターをプレイヤーの従魔にすることができる。

レベルを上げると、上位種モンスターをテイムしやすくなる。

特定のモンスターは条件を満たさなければテイムできない。


テイムが成功した場合、テイムモンスターの首か腕に『不滅の枷』が嵌められる。効果はプレイヤーの『不滅の腕輪』と同じ。


テイム成功の証としてアイテムボックスに『主従の絆』という名のオーブが収納される。


テイムモンスターはHPが0になって一定時間が経過した後、復活地点に転移して復活できる。また、テイムモンスターは主人であるプレイヤーのHPが0になった時に同様にHPが0になり、プレイヤーと共に復活地点に転移して復活する。


テイムモンスターはプレイヤーがリープやログアウトをしている時は睡眠状態になる。


プレイヤー憑依後には、スキルレベルが1上がるごとにCHAの値が1上昇する。


1秒につき、MP5を消費する。

使用する時にはテイムしたい対象に手のひらを向けて「魔力操作ON」「テイムON」と言う。終了する時には「魔力操作OFF」と言う。

MPが0になると自動的に解除される。



【習得する/習得しない】





「今、MPが10あるから一回はテイムを試せるね。取ろう!!」


マリーは説明文を斜め読みして決断する。

スキルポイントを10消費して『テイム』を習得した。

白い子犬はおすわりをして、マリーをじっと見つめている。


「今から君をテイムするからね。じゃあ、行きます!!」


マリーは子犬に手のひらを向けて叫んだ。


「魔力操作ON!! テイムON!!」


マリーの手のひらから子犬に向けて魔力が放たれた。

子犬の身体が光輝いたその時、マリーの身体からごっそりと魔力が奪われていく。


「マリー!!」


ウェインの声を聞いた直後、マリーの身体は光の粒になった。

マリーは、死んだ……。


***


マリー・エドワーズの追加スキル


コモンスキル『テイム』レベル1


現在のマリー・エドワーズのスキルポイントは140P



若葉月4日 昼(3時30分)=5月4日 5:30

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