第四十二話 5月4日/早朝ログイン
……アラームの音がうるさい。
「んん……」
悠里はアラームの音から逃れるために、スマホに背を向けた。アラームは鳴り続けている。
「うるさい」
悠里は口をついて出た自分の声で、覚醒した。
スマホのアラームを止め、時間を見る。
AM3:45の表示を見て、自分がこの時間にアラームが鳴るように設定したことを思い出した。
5月とはいえ、昨日の夜は少し暑かったのでトレーナーではなくパジャマを着て寝た。
パジャマの上着の裾が、寝乱れている。
悠里は勢いよく起き上がり、ベッドを下りた。
とりあえず、着替えよう。
早朝のせいか、肌寒いと思いながら、悠里はパジャマを脱ぎすて、スポーツブラをつけてタンクトップを着た。
ボーダーのシャツに、赤いワイドパンツを履く。
靴下は、白い無地のものにした。
ざっくりと手櫛で髪を整える。
「トイレに行っておこう」
悠里は早足でトイレに向かう。家族の誰にも会わずに済んだ。祖父は早起きだから、もしかしたら鉢合わせするかもしれないと思ったのだけれど。
トイレをすませて自室に戻った悠里は、すぐにゲームをプレイできるように準備して、ベッドの上に座る。
スマホを見るとAM3:58だった。
「圭くんの方が寝坊してるかも」
悠里は呟いて、あくびをした。
4時に電話が来なかったら、悠里から圭に直電しよう。
……コール音が鳴った。圭だ。
「おはよう。圭くん」
「おはよ。起きてた?」
「うん。一応、3時45分にアラームかけてたの。圭くん電話してくれるのに、起きられなかったら嫌だったから」
「おー。偉い。悠里はちゃんとしてるな」
圭が優しく笑って言った。
全然、ちゃんとしていない。髪は手櫛で整えただけだし顔はまだ洗っていない。
「じゃあ、電話切るな。ゲームで会おう。迎えに行く」
「うん。待ってるね」
悠里は通話を切り、スマホを机に置く。
そして、ゲーム機とヘッドギアの電源を入れてヘッドギアをつけた。
ベッドに横になり、目を閉じる。
「『アルカディアオンライン』を開始します」
サポートAIの声がした直後、悠里の意識は暗転した。
気がつくと、悠里は転送の間にいた。
昨日と同じクリーム色のワンピースを着て、ポニーテールに白いリボンが揺れている。
「プレイヤーの意識の定着を確認しました。『アルカディアオンライン』転送の間へようこそ。プレイヤーNO178549。高橋悠里様」
「おはようございます。サポートAIさん」
「おはようございます。高橋悠里様」
「今日は幼なじみと待ち合わせをしているので、もう行きますね」
「それでは、素敵なゲームライフをお送りください」
サポートAIの声に送られ、悠里は鏡の中に入っていった。
***
若葉月4日 朝(2時05分)=5月4日 4:05
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