第二十九話 マリー・エドワーズは採取ナイフと採取袋を手に入れる

「お待たせ。持ってきたわよ」


ヤナはカウンター奥から戻り、採取ナイフと採取袋をカウンターに置いた。

見えない……っ!!

マリーが採取ナイフと採取袋を見ようとジャンプしているとヤナがカウンターの前に踏み台を置いてくれた。


「マリーちゃん。気がつかなくてごめんなさいね。踏み台を使って」


「ありがとうございます!!」


踏み台に乗ったマリーはカウンターの上にある採取ナイフと採取袋を眺める。

採取袋は袋というより、革製のウェストポーチのように見えた。


「ヤナさん。お手数を掛けて悪いわね。3歳ごろなら私が抱っこできたんだけど……」


「いいのよ。気にしないで。マリーちゃんはもうお姉さんだから赤ちゃんみたいに抱っこされたら恥ずかしいわよねえ?」


「うん。私、もうお姉さんだから、お祖母ちゃんに抱っこしてもらわなくても大丈夫だよ」


マリーは、得意げに胸を張る。


「そうね。マリーはもう5歳だものね」


祖母はそう言って、マリーの髪を優しく撫でた。

マリーは嬉しくなって笑顔を浮かべる。


「マリー。採取ナイフを握ってみて。気をつけてね」


「うん」


マリーは祖母に促され、カウンターの上に置かれた

子どもでも扱えそうな大きさの採取ナイフを手に取る。

幼女の小さな手でも、問題無く扱えそうだ。


「マリーちゃん、きちんと握れているわ。問題無さそうね」


「そうね」


「採取袋の確認もしてもらえる?」


ヤナに促され、祖母が採取袋を確認し始めた。

表を見て、裏を見て、触って確かめている。

やがて、祖母は小さく微笑んでヤナに視線を向けた。


「問題無さそう。採取袋と採取ナイフ、両方買うわ」


「ありがとうございます。アニスさんのギルドカードを貸してもらえる?」


祖母は手提げかばんにしまったギルドカードを取り出し、ヤナに渡した。


「ギルドカードで支払いができるの?」


「そうよ。Cランク以上になると、ギルドポイントで買い物ができるのよ」


すごい!! ギルドカード、便利だなあ。

マリーは感心した後、ふと疑問に思う。


「でも、ギルドポイントを使ったら減っちゃうんでしょ? ギルドランクが下がっちゃうんじゃないの?」


「マリーちゃんは小さいのに賢いのねえ。えらいわ」


「お祖母ちゃんはね、Cランク以上にランクを上げたくないの。だから積極的にポイントを使っているのよ」


「ギルドランクを上げたくないの? どうして?」


ギルドに登録したのなら、最高位ランクを目指すのがゲーマーの道。

首を傾げて尋ねるマリーに、ヤナが答える。


「Bランク以上のギルド員は、ギルドからの指名依頼が来ることがあるんだけど、基本的に強制受注なのよ。断れないの」


「お祖母ちゃんは宿屋と食堂の仕事があるから、薬師ギルドの指名依頼を受けられないと思って。だから、わざとCランクに留めているのよ」


「そうなんだ」


「ギルド員それぞれに生活や夢、目標がある。自分のスタイルで活動すればいいのよ」


ヤナはそう言いながら作業を終え、ギルドカードを祖母に手渡す。


「お買い上げ、ありがとうございます」


「こちらこそ、いろいろとありがとう」


祖母はギルドカードを受け取り、手提げかばんにしまう。

それから、採取ナイフと採取袋をしまおうとした。


「おばあちゃん!! 私がウェスト……じゃなくて採取袋を持ちたい!!」


「そうね。マリーにつけた方がいいかしらね」


祖母は採取袋をマリーの腰に巻き、固定した。

ウェストポーチのように見えた採取袋は、やはりウェストポーチのように使うようだ。


「似合う?」


「似合うわ。可愛い」


マリーは踏み台から飛び下りて、くるりと一周まわった。

ワンピースの裾がふわりと舞う。


「マリーちゃん。薬師の第一歩を踏み出したわね。頑張って。応援しているからね」


「頑張ります!!」


マリーは力強くヤナに応え、祖母と手を繋いで薬師ギルドを後にした。


***


若葉月1日 昼(3時55分)=5月3日 10:55

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