第二十八話 マリー・エドワーズは薬師ギルドに登録する



「ヤナさん。初級魔力回復薬を10本作りたいの。マナ草を売ってもらえる?」


「ごめんなさい。今、在庫が少なくて7本分しか渡せそうにないわ」


「そうなの? もしかして、人がいないことに関係ある?」


「あるわ!! 大ありよ!!」


バン、と両の手のひらをカウンターに叩きつけ、ヤナは叫んだ。

今、ヤナのHPは減り、カウンターに打撃が入ったような気がする。


「じゃあ、私たちが薬草を取ってきてあげる!!」


ヤナは薬草が無いことに憤っているのだ。

マリーと祖母が薬草を採取しに行けば、長話を聞かずに済むし、甘くて美味しい蜂蜜飴を貰った恩を返すことができる。


「いいよね? お祖母ちゃん」


マリーは祖母を見上げ、小首をかしげた。


「そうしてもらえると、ギルドとしてはすごく助かるわ」


マリーとヤナの懇願に折れた祖母は、息を吐いて苦笑する。


「わかったわ。薬草採取の依頼を受けます」


「やったー!!」


「ありがとう。アニスさん。本当に助かるわ」


マリーは万歳をして喜び、ヤナは満面の笑みを浮かべた。


「それじゃあ、マリーちゃん。薬師ギルドに登録しましょうね」


「うん!!」


初ギルド登録!!

マリーはヤナが手渡してくれたカードを受け取りわくわくしながら眺めた。


「カードの右下に四角いマークがあるの、わかる?」


「うん」


「その四角のところにマリーちゃんの親指をぎゅっと押しつけてちょうだい」


「どっちの指でもいいの?」


「いいわよ。親指がダメなら他の指でもいいし、足の指でも大丈夫よ」


「右手の親指にします」


マリーはヤナに言われた通り、ギルドカードの右下にある四角い場所に右手の親指をぎゅっと押しつけた。すると、ギルドカードが淡く光り出す。


「無事に登録できたようね」


ヤナはマリーの手にあるギルドカードを見て、微笑んだ。

マリーは光がおさまったギルドカードを眺める。





薬師ギルド ギルド証



マリー・エドワーズ(女性/5歳)



ギルドポイント 0P



薬師ランク G





「お祖母ちゃん!! 私のギルドカード!! ちゃんと私の名前があるよ!!」


「よかったわね。マリー。ヤナさん。登録料を支払うわ」


「10歳未満の子は無料で登録できるから、登録料を払う必要は無いわ」


「そうなの? 知らなかった」


「そこの壁にも貼ってあるんだけど……。あらやだ。剥がれかけてる。後で貼り直さないと」


薬師ギルドの登録料を節約できた!!

マリーは心の中でガッツポーズをした。


「登録料を無料にしたのは、孤児院の子たちに薬師ギルドの仕事をさせてあげるためなの。救貧民院からの紹介状を提示しても、無料で登録できるのよ」


「そうだったのね。素敵ね。それなのに、こんなに人がいないのはどうしてなの?」


「それがね。クソ錬金術ギルドマスターが……」


「お祖母ちゃん!! 私、早く薬草を取りに行きたい!!」


マリーは片手をあげてジャンプしながら、自分の存在を主張した。


「そうね。マリーちゃんは長話は退屈だものねえ。ギルドカードを貸してちょうだい」


マリーはヤナに、自分のギルドカードを渡した。


「私も、手続きをお願いするわ」


祖母は手提げかばんから、自分のギルドカードを取り出し、カウンターに置く。


「はいはい。じゃあ、常時依頼の『マナ草採取』を依頼するわね。二人とも、いいかしら?」


「ええ。いいわ」


「はい!! 頑張ります!!」


笑顔で確認するヤナに祖母や穏やかに応え、マリーは元気に手をあげた。

ヤナはカウンターで作業をして、マリーと祖母にギルドカードを返す。


「依頼手続き、完了しました。期限は無いから、焦らなくていいわよ」


「はい」


「ギルドカードを失くすと、再発行に銅貨5枚の手数料が掛かるから、失くさないようにね」


「マリー。お祖母ちゃんがカードを持っていてあげるわ」


「うん」


アイテムボックスに収納すれば失くさなくて済むけれど祖母とヤナの目がある。

洋服にポケットがなく、鞄をもっていないマリーは祖母に薬師ギルドカードを預けることにした。

祖母はマリーと自分のカードを鞄にしまい、ヤナに視線を向ける。


「ヤナさん、マリーが使える採取ナイフと採取袋を見せてもらえる?」


「わかったわ。少し待ってね」


ヤナはカウンターの奥に姿を消す。マリーは口の中で蜂蜜飴を転がしながら、ヤナが戻ってくるのを待った。


***


若葉月1日 昼(3時40分)=5月3日 10:40

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