【プレイヤーの感覚設定】第十八話 高橋悠里はマリー・エドワーズとして目覚める
目を開けると、知らない女性が顔をのぞきこんでいた。
悠里は少し混乱する。
「マリー。目が覚めたのね……!!」
女性はそう言って涙ぐむ。
悠里は自分がマリー・エドワーズとして目覚めたと自覚した。
頭の中に、ゆっくりとマリーの記憶が流れ込んでくる。
「おかあさん……」
マリーの声は子ども特有の、高くて甘い声だった。
ボイス確認をしなかったけれど、可愛い声でよかった、と悠里は思う。
「よかった。ありがとうございます。これも、司教様のおかげです……!!」
司教?
悠里は心の中で首を傾げた。
マリーが目覚めたのは悠里が憑依したからなのに、なぜか『司教様のおかげ』ということになっているようだ。
状況がつかめない悠里は、とりあえず黙って話を聞くことにした。
「『リザレクション』の効果があったようです。ご息女は恩寵を得て目覚められました。おめでとうございます。お喜び申し上げます」
「恩寵というのは……?」
母親の隣に立っている大柄な男性が、司教に尋ねた。
この男性は、マリーのお父さんだ。
「恩寵とは、神々の慈悲。死ぬほどの傷を受けても教会で復活し、水や食物を得なくても長く眠り続けられる聖人になると言われています」
「まさか……!! そんなことはありえないでしょう」
母親が目を見開いて、言う。
「なにかの間違いじゃないんですか?」
父親の言葉に、神父は微笑んで布団の上に出ているマリーの左手を取った。
「ご息女の左腕には銀色の美しい腕輪が嵌まっています。これは、恩寵を受けた者と高位聖職者だけが視認できる『不滅の腕輪』です」
不滅の腕輪!!
ユニークスキル『不滅の恩寵』の説明欄に書いてあったような気がする。
「俺には何も見えないが……」
父親の困惑した声に、マリーは口を開いた。
「私には見えるよ。綺麗な腕輪」
マリーがプレイヤーキャラになったことを理解してもらいたかった悠里は両親に腕輪の存在を信じてもらえるように、そう言った。
「マリー。本当に見えるの?」
母親に問い掛けられて、マリーは肯く。
「ご息女は完全に『離魂病』を克服されました。おめでとうございます。あなた方ご家族に、さらなる幸福が訪れますように……」
「ありがとうございます。司教様」
「ありがとうございます」
両親は困惑しながらも、司教に頭を下げる。
司教が『恩寵』について説明してくれたことは助かったし、『不滅の腕輪』に気づいてくれたこともよかったけれど、でも、マリーが治ったのは悠里の功績なのに……。
「救いを求める者に手を差し伸べるのは、聖職者のつとめ。多額の喜捨もいただきましたし転移魔方陣で送迎していただけたので、日々のつとめも滞りなく行うことが出来ます。温かいお心遣い、こちらこそ感謝いたします」
今、なんて言った!?
マリーは目を剥いた。
ぼったくり聖職者!!
司教の足元まであるたっぷりとしたローブは光沢のある高そうな生地で金糸銀糸の華麗な縫い取りがある。
どう考えてもお金を持っていそうなのに、庶民から多額のお金をむしり取るなんてひどい……!!
「司教様。私、自分で目覚めました。司教様のおかげじゃないです」
マリーは必死に訴える。
ぼったくりを許してはいけない……!!
「マリー。司教様に失礼だぞ」
「そうよ。司教様。すみません」
「お気になさらず。それでは、私はこれで失礼します」
司教はマリーを咎めることなく、穏やかに微笑んで部屋を出て行った。
お金、返してもらえなかった……。
マリーは悔しくて、唇を噛み締めた。
***
『アルカディアオンライン』のプレイヤーの感覚設定は以下の通りである。
視覚設定 100パーセント
聴覚設定 100パーセント
痛覚設定 0パーセント
味覚設定 100パーセント
触覚設定 100パーセント
セーフディガードがONの場合は運営が不快と判断したものに対する嗅覚設定が10パーセント。それ以外は100パーセントとなる。
セーフディガードをOFFにした場合は嗅覚設定が100パーセントになり不快な匂いを回避できなくなる。
セーフディガードをOFFにした場合でも、プレイヤーの安全を担保するため痛覚設定の変更はできない。
感覚設定はすべてのプレイヤーに適用される。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます