第九話 高橋悠里は主人公を選択する



「主人公は課金と無課金のどちらかのカテゴリーから選択することになります」


「無課金でお願いします!!」


悠里はサポートAIの問いかけに、即座に答える。

無料でプレイできると知ったから『アルカディアオンライン』で遊ぼうと思ったのだ。

登録した銀行口座には、小学一年生の頃から貯めているお年玉を入金しているけれど、課金に使うつもりはない。


「かしこまりました。それでは、無課金で選択できる主人公の一覧を表示致します」


サポートAIがそう言うと、悠里の目の前に人名が羅列された透明なボードが現れた。


「わあ。すごい。人の名前がいっぱい……!!」


10行10列に並んだ人名を見て、悠里は歓声をあげた。


「100人もいる!! この中から選んでいいんですか?」


「はい。気に入ったキャラクターがいなければリロード致しますのでお申し付けください。名前に触れると、人物紹介が表示されます。

人物紹介欄の下部にボイス確認という表記がありますのでキャラクターの声を確認したい場合はご利用ください」


「はい。わかりました。……あの、女の子のキャラだけを表示させることって出来ますか?」


悠里は女性主人公のゲームをプレイするのが好きだ。

男性主人公しか選べない場合は、仕方無く男性主人公でプレイするけれど……。


「可能です」


一覧が、女性の名前で埋め尽くされる。


「いっぱいいるから迷っちゃうなあ。……じゃあ、とりあえずこのマリーちゃんを見てみます」


悠里は『マリー・エドワーズ』をタップした。

目の前に、キャラクターのグラフィックと人物紹介が表示される。



マリー・エドワーズ


女性/5歳


港町アヴィラの中央通りに位置する『銀のうさぎ亭』という宿屋兼食堂に住む少女。家族は両親と祖父母。

肩までの栗色の髪に青い目を持つ可愛らしい少女。

家族の仕事を手伝うのが好きで、宿屋や食堂を訪れる客にも可愛がられている。

現在、離魂病にかかり、余命数日である。




可愛いグラフィックの女の子だなあ、と思いながら人物紹介を読んでいた悠里は最後の一文を読んで、ショックを受けた。


「余命数日って、どういうことですか……!?」


「言葉通りの意味です。主人公が初期に憑依可能なキャラクターは全員『離魂病』にかかり、生死の境を彷徨っています」


「なにそれ!? 設定が重すぎる……っ」


「プレイヤーが主人公に選んだキャラクターは『離魂病』を克服して生き延びることができます」


「そんなのこの子選ぶしかないじゃない……!! この子が死んじゃったら家族が悲しむ……!!」


「『マリー・エドワーズ』もその家族も、データですのでお気遣いなく。ボイスの確認や、他のキャラクターの確認をしますか?」


「いいえ。いいです。これ以上、選ばなかったら死んじゃうキャラの詳細とか見たくない……」


「かしこまりました。それでは、高橋悠里様は主人公として『マリー・エドワーズ』を選択するということで宜しいですか?」


「宜しいです!!」


「了解しました。それではこれから、高橋悠里様とマリー・エドワーズの意識の組み付けを行います。このまましばらくお待ちください……」



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