第七話 高橋悠里は『自由と善性の両立』について聞く



「『自由と善性の両立』について、ご説明いたします」


「お願いします」


悠里はサポートAIに頭を下げた。

声だけしか存在しない相手にお辞儀をすることに意味は無いかもしれないが、教えてもらうのだから敬意を払いたい。


「『アルカディアオンライン』では挨拶をすると『プレイヤーに対する善行値』が上昇します。

善行値を上げたいプレイヤーは、挨拶をするのが面倒でも善行値を上げるために挨拶をするでしょう」


「それは、善いことじゃないんですか? きちんと挨拶をする人が増えた方が良いと思います」


「そうですね。でも、それは挨拶の強要につながります」


「それは、ダメなことなんですか……?」


「『アルカディアオンライン』の制作スタッフは、善行の強要は自由の侵害につながると考えたようです」


「善行の強要は自由の侵害……」


「善行を推奨しても、善行を強要しない。たとえば、挨拶をされたプレイヤーが挨拶を返さなくても『プレイヤーに対する善行値』は変動しないというのは、挨拶を返すことを強要したくないという制作スタッフの思いの現れです」


「自分が善いことをしたいと思って善いことをするのは良くて誰かから強制されて善いことをせざるを得ない状況に追い込まれるのがダメということですか?」


「おおよそ、適切な理解だと思われます。それでは『二種類の善行値』について説明を致します」


まだ説明が続くのか……。

悠里はうんざりした気持ちを表に出さないように、気を引き締めた。

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