第三話 高橋悠里はゲーム好きの幼なじみに助けを求める



『アルカディアオンライン』をプレイするために会員登録をすすめていた悠里は、本人名義の銀行口座情報の入力欄を見て混乱した。

基本無料で遊べるゲームのはずなのに、なぜ、銀行口座の情報を記載しなければならないのかわからない。


「どうしよう。私、詐欺られてる?」


怖くなった悠里は『アルカディアオンライン』の先行プレイヤーの圭に助けを求めることにした。


「圭くん。直電、出てくれるかなあ……」


コール音が鳴ること数回、スマホから聞こえて来たのは晴菜の声だ。


「悠里。今、お兄ちゃんゲーム中なんだけど、緊急の用事?」


「『アルカディアオンライン』のことで、聞きたいことがあるの」


「わかった。呼んでくるからちょっと待ってて」


バタバタと足音がした後、圭に呼びかける晴菜の声。

その後、圭の悲鳴が聞こえた。


「ちょ、マジお前、強制ログアウトとかバカだろ!? 今、もう少しでシルバーフォレストウルフを倒せそうだったのに……!!」


「お兄ちゃん。悠里から直電。緊急」


「マジか。悠里、どうした?」


「圭くん。ゲームの邪魔してごめんなさい」


「いいよ。緊急なんだろ?」


圭は晴菜の兄で、現在は高校一年生。

悠里が子どもの頃から、よく面倒を見てもらっていた。

ゲーム好きの同士として、今も可愛がってもらっている。


「あのね。今『アルカディアオンライン』の会員登録をしているんだけど……」


「マジか!! 同士よ。歓迎する!! で、何が聞きたい?」


「会員登録画面に、銀行口座の情報を書くところがあるんだけど詐欺られているんじゃないかって心配になって……」


「あー。それな。俺もネット銀行の口座番号を書いたけど、入金だけで出金は無いから大丈夫だよ」


「入金? お金がもらえるの?」


「そうそう。『アルカディアオンライン』の売りの一つが、ゲーム内通貨をリアルマネーに換金できることなんだけど、知らなかった?」


「知らなかった!! 私、公式サイトのグラフィックを見て一目ぼれして基本無料ってところだけを確認してすぐに会員登録をしたから……」


「マジか。潔いな」


「圭くんに大丈夫って言ってもらえて安心した。会員登録をすすめるね」


「おう。頑張れ」


「ありがとう。圭くんもゲーム頑張ってね」


「ぐあー!! そうだった。俺のシルバーフォレストウルフ」


悠里は、圭の叫びを最後まで聞くことなく、電話を切った。


「銀行口座の登録は、通帳を見ればいいんだよね。たぶん」


通帳は、小学一年生の時に、お祖母ちゃんに付き添ってもらって作った。

その通帳に、毎年、お年玉を貯めている。

机の引き出しから通帳を取り出した悠里は、緊張しながら口座の情報を入力する。

そして、すべての情報を入力し終えて『確認する』をクリックした。

記載した情報に間違いが無いか確認して『登録する』を選択する。


「出来た……!!」


画面には『登録が完了しました。記載したメールアドレスに登録完了のメッセージを送信しています。お手数ですがご確認ください』と表示されている。


「メール、確認しよう……!!」


悠里は少し緊張しながら、登録完了メールを確認した。


「よかった。ちゃんと登録できたみたい。……ん?」


登録完了メールには、近日中にアルカディア運営スタッフから、連絡先として登録した電話番号に連絡が来るとの記載があった。


「まだ手続きがあるのかなあ……」


会員登録を完了したら、すぐにゲーム機器が家に到着すると思っていた悠里は、がっかりして肩を落とした……。



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