しぶとい戦いークリバヤシの戦い3

犠牲を払いながら、堀を埋め、ニッタ軍は襲い掛かる。


「行け!

こんな小城に関わっている時間はないぞ。

さっさと落としてこい!」


ニッタは指揮官を集め叱咤激励する。


この二つの支城などオマケだ。

後方に聳え立つムーン城こそが本命であり、そこを落とした上で、駆けつけて来るダニエルを撃破するか、領都アースを陥落させるのがニッタの考えだ。


この後に行うべきことを考えると、ニッタとしてはまだスタートラインにも立てていないと焦りを募らせる。


しかし、瞬時に崩せると見込んだ土の城もどきはしぶとかった。


近づくとまずは射石砲で大きな石を打ち込み、接近すれば矢は勿論、石、丸太を落とし、塀に取り付けば煮えたぎった油や水をかける。


油に火をかけられたことがトラウマとなり、兵は腰が引けている。


そんな中、ニッタが待っていた攻城兵器がようやく届いた。

早速、投石機で大石を放ち、塀と土塁を崩す。

別方面からは破城槌で突進させ、一気に城門を崩壊させ、兵をなだれ込ませる。


「やれやれ、こんなところで攻城兵器を使うとはな。

しかし、これで奴らは終わり。

いよいよ本城に取り付けぞ」


ニッタは、この城を、中に入れば脆いモット・アンド・ベリーのようなものと考えていたが、内実は全く異なる。


中に突入して兵が数時間経っても戻ってこず、不審に思ったニッタは幕僚を見に行かせる。


その報告は驚くものであった。


「あの内部は迷路のようになり、あちこちで伏兵からの射撃や奇襲があるのか!」


「はっ。この中はあちこちを縦堀などで通行を妨げ、盛り上げた細い曲がりくねった通路しか通れません。

そのクランク部分では敵から十字射撃を浴びます。


通路の下はまたしても薬研堀が掘られ、落ちれば上がって来れません。

ようやく通路を突破し入った郭の中は、出口のない広場となり、閉じ込められた兵は四方からの射撃で全滅しました」


話している間に、アポロという名らしい城からは兵が撤退してきた。

指揮官のワキヤが駆け寄ってくる。


「兄者、城の中は蟻地獄のようだ。

大軍があっても内部は身動きが取れず、力攻めができない。

騎士を集めて精鋭部隊で突破しようと思う」


「待て。

本番はこの後にある。

ここで精鋭の騎士を消耗させるのは避けたい。

歩兵ならば補充は効くので、歩兵を主力に攻めよ」


アームストロングを攻めるチグサにも指示し、貴重な攻城兵器と騎士を温存して、歩兵による数に任せた攻めが続けるが、数日間一進一退の攻防が続く。


その間、本城ムーンは活発な動きを見せ、昼は牽制に蠢き、夜は夜襲をかけてくる。ニッタ本軍はその動きに翻弄される。


「城を直接救援に行かずに間接的な攻撃に留めているのはなぜだ?

そして城の守備隊は、中まで侵攻されていて何故食糧や武器が続いているのだ?」


ニッタの疑問にワキヤは答える。

「どうやら後方のムーン城からの支援がトンネルを通じて届いているようです。

そして夜間に負傷者を引き下げ、新手を送る。

夜間の活動から目を逸らすために連日ムーンから牽制や夜襲が行われているのではないでしょうか」


ニッタは腕組みして考える。

「ムーンと支城は一体なのだな。支城を侮り、軽度の損害で落とそうと、一つ一つ別々に考えたのが失敗だ。


これまで惜しんでいたが、明日からは攻城兵器を存分に使い、騎士も前線に出せ。

支城を落とさねば肝心のムーンには取り付けぬ」


翌日からのニッタ軍の攻撃は熾烈なものとなった。

故障も気にせずに惜しみなく使われる投石機、これまでとは明らかに異なる騎士による猛烈な突撃、夜間も煌々と明かりを照らし怪しい動きを牽制する。


これらの動きにより、クリバヤシは動きを止められ、アポロを守るバロン・ニシは苦境に立たされた。


ニシの配下は、ワキヤ軍の猛攻撃に対して、土塁に大盾を立てて射撃を繰り返し、矢が尽きると上から小石や土を投げて混乱させてから長槍を持って一斉に突き出し、また土に潜りトンネルを使って背後から奇襲するなどあらゆる手段を使って抵抗するが、敵兵は数に任せて次々と押し寄せ、城の周囲には警戒線が張られてムーンからの補給ももうままならない。


「ニシ様、もはやこれまで。

奴らの仲間を焼き殺した我らは降伏も赦されますまい。

夜になったところで最後に突撃して散りましょう!」


日も傾く頃に言い出された部下の提言をニシは一蹴する。


「クリバヤシ様からは玉砕は絶対に禁じられている。

まずは二の丸を捨てて全員本丸に入れ。そこならまだ土塁も健在、抵抗線がある。


余力のある兵を集めて、夜半にトンネルを使い奇襲し、混乱させる。

残りはタイミングを見て、後方の絶壁に鎖を垂らし、そこを降りて背後の険しい尾根を伝って逃げろ。


あそこには敵の警戒も及んでいまい。

みんなでムーンに戻るぞ」


ニッタ軍は激しい抵抗を退け、その日のうちに本丸まで追い詰めたことに安心する。


本丸を包囲し、「あと一歩、明日には落城させよう」と言い合うと、当番兵に包囲と警戒をさせて、残る兵は天幕に引き上げて今晩はぐっすり眠るようだ。


ニシはまだ元気の残る兵を連れてトンネルを潜っていく。

「少し待て」

闇の中、お互いの息遣いしか聞こえない。


そこへドーンと爆発音がした。

「二の丸近くにありったけの火薬を詰めて、後方から逃げる際に導火線に火をつけさせた。


近くには兵の遺骸が並んでいる。諦めて自害したと思ってくれればいいのだが、そう甘くはあるまい。


しかしわずかでも時間は稼げる。

この間に逃げるぞ」


千で籠もっていたが、徐々に死者が出て、負傷者を逃がし、ニシとともにいるのはおよそ200。


彼らがおそるおそる抜け道から出てくると、更にドーンという音がした。

「火薬をかけてトンネルを落としてやった。

追いかけてきた敵兵は生き埋めだ。

後方の奴らも逃げ出しているだろう。


行き掛けの駄賃に、隣のアームストロングの敵兵を背後から襲って、センダの助けをしてやるか」


ニシがニッタ軍を装い、チグサ軍に近づくと援軍と思った彼らは警戒心なく中に受け入れる。


そこを突如襲撃し、大声で呼ばわる。


「チグサは裏切り者!

ニッタ将軍はチグサを討てとの御命令だ。

ニッタ将軍に従う者は抵抗するな!」


ニッタとチグサの間柄がギクシャクしていることは兵も知っている。

間諜からの情報を活かし、ニシが大音声で喚きながら敵兵を撫で斬りにしていくと、チグサ軍は大混乱となる。


その間に、これを好機とみたセンダは全軍で打って出てそのまま脱出を果たす。


それと同時にニシも兵をまとめてムーンに向かう。


チグサ軍は同士討ちし、ムーンを見張るニッタ軍はその混乱の収拾に大童。

苦も無く、ニシとセンダはムーンに迎えられる。


翌朝、混乱を収めたチグサ軍が警戒しつつ本丸に攻め込むと中はもぬけの殻であった。


そのさまを見たニッタは激怒するが、その一方クリバヤシは喜ぶことなく冷静に事態を計算していた。


(損害を与えたとはいえ、敵軍はまだ2万5000はいるだろう。

こちらはせいぜい4000。

城攻めの基本は攻め方は3倍は必要という。


それを大きく上回る敵に対してどう戦うか。

とにかく泥まみれになってもダニエル様が来るまで時間を稼ぐ)


クリバヤシはレオナルドとカンベーへの頼み事の成果を尋ねに行く。

いよいよ彼らの知恵を役立てるときがきたようだ。

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