第25話 大山の謝罪

 部屋の中には何時もとは違う空気が流れていた。ベッドに腰を下ろした深澤。腕を組み、立ち並ぶセルジオスとマリベル。その前には正座をしている大山がいる。


セルジオス

「お前さ、仲間を売るってどういう事なんだ?」


大山

「い、いやセルジオス、お前って」


セルジオス

「お前だろ! 偉そうにするなよ変態野郎!」


大山

「へ、変態ちゃうて、堪忍してや」


 笑顔で取り繕う大山は、ちらちらと深澤の顔色を伺っている。


セルジオス

「何深澤さんの顔色伺ってるんだよ、そういえばお前、深澤さんの事何か言ってたな?」


大山

「は? 何も言うてへんて!」


 大山は青ざめ語尾を大きくする。


セルジオス

「嘘つくなよ、言ってたろ」


大山

「課長! ホンマです! 自分何も課長の事言ってないです、信じてください!」


深澤

「何だよ? 怒らないから正直に言ってみろよ」


大山

「い、いえ」


セルジオス

「お前、往生際が悪いんだよ! マリベルもこいつに何か言ってやれよ」


 マリベルは真剣な顔をしながら大山に聞く。


マリベル

、変態なんだってな?」


 一斉に笑う三人の笑い声が部屋中に響き渡った。


深澤

「マリベル笑わすなよ」


セルジオス

「いやーマリベル、今の良かったわ、最高にウケたよ」


大山

「そ、そーやって皆してワシの事、馬鹿して! ワシ頭蓋骨開けられそうになったんやで! しゃーないやん!」


マリベル

「また言い訳ですか? 大体深澤さんの器量で釈放されたんですよ、ちゃんとお礼言ったらどうですか」


セルジオス

「そうだよ、深澤さんはお前と違って器がでかいからお前の礼なんていらないと思うけど言っとけよ」


大山

「な、何か自分らに言わされるみたいで何か嫌や、自分のタイミングで言うわ」


深澤

「大山、一々いちいち二人にマウント取ろうとするなよ、言っとくけど立場が上だと思ってるのはお前だけだからな」


大山

「!!!」


セルジオス

「そうだよ勘違い野郎、二度と偉そうにするなよ」


大山

「………」


マリベル

「後、勘違いして私に言い寄って来るの止めてもらえます?」


大山

「………」


深澤

「いいよもう許してやるから、正座止めろよ」


大山

「………」


深澤

「大山、どうした?」


 大山の目は虚ろんでいる、その目に力は無い。


深澤

「又かよ! 何なんだよこいつ! 面倒くせえ」


マリベル

「ちょっとショックが大きかったんじゃないですか?」


セルジオス

「ああ、深澤さんの言葉に傷ついたんだろ」


深澤

「俺じゃないだろ、お前達の方が凄かったじゃないか」


マリベル

「絶対に深澤さんが、『立場が上だと思ってるのは自分だけだ』って言ったからですよ」


セルジオス

「ああ、俺が大山だったらショックで死ぬよ」


深澤

「もう分かったよ、マリベルやり直しだ、上手く調整してくれ」


マリベル

「えーと、どの辺りから」


深澤

「大山が自分のタイミングで謝るところからだ」


マリベル

「本当に微調整ですね、もしずれたらご免なさい」

上級精神操作魔法サイキアトリックLEVEL-3」


 魔法を浴びた大山の目に力が戻っていく。


深澤

「おお、大山、いつでも言っていいぞ!」


大山

「……」


深澤

「さあ、どうぞ!」


大山

「……」


深澤

「さあ! どうぞって!」


大山

「あ、あの、モ、モンスター相手に震えてたって言いました…」


深澤

「あん?」


大山

「そ、それと…も、もう…デカイ…顔させへんて…言いまし…た、すいません!!」


深澤

「お前言ってねーって言ったよな! 言ってんじゃねーかよ!!」


大山

「お、怒らへんて言うたじゃないですか」


深澤

「わ、分かったよ、もういいよ許すから、でも次はないからな!」


大山

「有り難う御座います!!! それにしても、課長はホンマ凄いですわ! ワシも課長代理として精進しますんで! 二人も課長がおらん時はワシの事課長やと思って構わんから頼ってや!」


深澤

「……二人も今回は目をつぶってやってくれ、もう疲れたからこの話しは終わりな」


 マリベルとセルジオスは、やれやれといった感じで承知した。


深澤

「それよりもマリベル、ちょっといいか?」


 深澤がマリベルの手を引き部屋を出ると大山がそれを尻目に口を開く。


大山

「早速け?」


セルジオス

「何が?」


大山

「何がって、分かるやろ? 早速おっぱじめる気なんやて、こんな時間からやで、ホンマ信じられんて、大体ワシのせいやないで、課長がワシに換金頼まなかったらこんな事になってないやん、ワシ被害者やで、セルジオスどう思う?」


セルジオス

「お前のその性格が信じらんねーよ! 耳が腐る、もう喋るな!」


大山

「くっ!」

(あかん!こいつもう課長に洗脳されとるわ、何とかせなアカンで)


「セ、セルジオス、ここだけの話しなんやけどな自分さえ良かったらワシの店あんたに任せてもええて思っとるんや、どうや? 店長やで」


セルジオス

「何がワシの店だよ、宿の部屋で勝手に商売してるだけじゃねーか、変態マッサージはお前がやってればいいだろ」


大山

「へ、変態マッサージ? な、何で? 何で知っとんの?」


セルジオス

「!!」

(こいつやべーな! 本当にやってたのかよ)


 ドアノブがガチャリとなると大山はセルジオスに向かって口元に人差し指を立てた。


深澤

「大山、今からマリベルと一緒に王宮に行ってこい」 


大山

「な、何しにですか?」


深澤

「オーブだよ、オーブを貰いに行くんだ、重要な仕事だからお前に任せるからな、明日は皆でダンジョンに潜る予定だから頼んだぞ」


大山

「はい! 課長、ワシに任せて下さい! 早速汚名返上や! でもオーブ必要でっか?」


深澤

「必要だよ、必要だから言ってるんだろ、お前は何も心配しなくていいから大丈夫だよ」










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