第23話 元剣聖セルジオスその弐
人数が増えるということ決して良い事ばかりではない。人間関係には相性が重要なのだ。恐らく大山は牙を
しかし大山が悪い訳ではない、社会性を築く生物の本能なのだろう、弱いものを叩く、大山に自覚はないだろうが抗っているのだ。俺は弱くないと、1番下ではないと。
深澤
「それで大山の事なんだけどな、今 あいつはお前のことを恐れてるんだ、だから味方だと思わせればいいんだよ、でもだからって言いなりになるのは間違いだからな、絶対にしてはいけない。褒めて、肯定してあげるんだ、それが上手くやっていくコツだよ、大山の大好物は胡麻だからさ覚えておくといいよ、擦った胡麻だからな。それと明日はお前に話しがあるから換金は大山とマリベルにやってもらえよ」
セルジオスにグリーンハーブの換金を二人に頼めと指示をしてから、ベッドに入って直ぐに目を瞑った。途轍もなく長い1日がようやく終わりを迎え、再び朝日が立ち上る。
大山
「何でワシが換金行かなあかんの! 自分のやん! 普通自分でやるで!」
セルジオス
「すいません大山…さん、深澤さんと大事な話しがあるので」
(しまった! のっけから間違えちまった!)
大山
「はあ?何でワシ抜きなん! 自分な課長に可愛がられてるからって調子乗ったらアカンで!」
セルジオス
「調子に乗ってる訳ではないです」
大山
「自分な! ワシが調子に乗っとる言うてんのが分からんのけ!」
セルジオス
「ほ、本当に調子に乗ってないです」
大山
「自分1回で分からんのけ! ワシに何回言わすん!」
セルジオス
「………」
(駄目だこいつバグってやがる! 話しが通じん!)
大山
「返事もできんのけ! 言っとくけどワシとあんたじゃ立場がちゃうんやで! 覚えとき!」
セルジオス
「で、ですよねー、自分勘違いしていました、すいません、実は自分もおかしいと思ってたんですよ、大山さんに代わりに行ってもらうなんて」
大山
「せやろ? 課長ちょっとおかしいて、マリベルの事もそうや、自分どう思った?」
セルジオス
「いやーあり得ないですね」
大山
「せやろ、同じパーティーの仲間やで、あり得んて、ワシなら絶対そんな事せんで」
セルジオス
「お、大山さんがリーダーだったら良かったのになー」
大山
「ホンマけ? 自分話せば分かるやないけ、でもその内そうなるで。あの人、口ばっかで動かんもん、この間もそうや、レベル上げに行った時ワシ1人でモンスター倒したんやで、あの人震えてたんちゃうか」
セルジオス
「本当ですか! 1人で!」
大山
「ほんまやて、嘘ちゃうで。せや、自分もっとワシに剣術教えてくれるけ? ワシが強くなったらもうデカイ顔させへんで、あんたもその方がええやろ?」
セルジオス
「分かりました、自分、大山さんに付いていきます」
準備の出来たマリベルと荷車を引いた人猿が
合流する。
マリベル
「お待たせしました」
人猿は大山に笑いかけるような表情を見せた。
大山
「何やエイブル? ワシの事好きなんけ? 見てみいてセルジオス、エイブルもワシの事慕っとる……」
大山は突如、前屈みになった。
(アカン!! 何で? ワシの体おかしくなってもうた!)
マリベル
「大山さん、どうかしたんですか?」
大山
「は、腹が急に痛くなってもうた!」
大山は荷車に足を掛けるとグリーンハーブの上で横になる。
大山
「マリベル病院や、病院連れてってや。セルジオス、換金はワシがしとくさかい、さっきの件頼むで」
二人を見送るセルジオスはある疑問が頭の中に湧いていた。
セルジオス
「グリーンハーブの換金を頼んできました」
深澤
「上手くやれたか?」
セルジオス
「はい。1つ聞いても宜しいですか? 大山さんは何も知らないんですか?」
深澤
「何も知らないとは?」
セルジオス
「あの雄の人猿をエイブルと呼んでいました」
深澤
「ああ、言ってないよ、言う必要性も無いしな」
セルジオス
「あの人、何なんですか、本当に馬鹿で弱いように見えますけど実際のところ、どうなんですか?」
深澤
「そう見えたとしたらそれは違うよセルジオス、大山が馬鹿で弱いんじゃなくて、お前が賢くて強いだけなんだ。そういうことにしといてやれよ」
セルジオス
「あの人要ります?」
深澤
「勿論要るよ、要るに決まってるじゃないか」
自然に出た言葉だった。あまりにも自然に出すぎた事に疑問が残った。何故そう思ったのだろうか、自分自身でもよく分からない。長年の付き合いだから? それとも同じ境遇に合っているから?自問自答しても答えは出ない。
言うなれば魂の叫びなのだ、大山は絶対に必要だ、いずれ切らねばならない日が来ると考えていたにも拘わらず確かに俺はそう強く思った。
セルジオス
「ど、どうかしましたか?」
深澤
「お前が変な事聞くからだろ」
セルジオス
「す、すいません」
深澤
「大山の事はお前に任せるから少し鍛えてやれよ、レベルも100は欲しいな」
セルジオス
「100ですか! 少しお時間かかりますが宜しいですか?」
深澤
「ああ、別にいいけど、どれくらい?」
セルジオス
「10年程です」
深澤
「待てねーよ! 何でそんなに掛かるんだよ」
セルジオス
「し、失礼しました、レベルアップのシステムの続きを説明させて頂きます。まず昨日も言いましたがレベルアップする為には自分よりも同等以上のエナジーを持つ相手を倒すしかありません。自分よりも弱い相手をいくら倒してもエナジーが増えないからです。エナジーは力の差があればある程増えます、逆に言えば力の差が無いほどエナジーは増えません、死んでしまえば元も子も有りませんので無理は出来ませんし、安全にレベルを上げるには時間が掛かるものなのです」
深澤
「まあ確かにそれだと難しいか、同等だとしても常に死の危険が付いて回るもんな」
セルジオス
「はい、それにいくら自分よりも強い相手といっても倒している内にレベルが上がって、相手の強さに追い付ついてしまうので、また新しい相手が必要となります」
深澤
「常にレベルの高いモンスターが必要ってことか」
セルジオス
「まあ、レベルの高いモンスターというかまずはエナジーの高い種族のモンスターですかね、この王国のほとんどのモンスターのステータスレベルは4がいいところです」
深澤
「ああ、何かマリベルが言ってたな、種族に対するレベルなんだろ?」
セルジオス
「そうです、レベル1のキマイラが相手だとしてもレベル100はないと、人では敵わないということです」
深澤
「でもレベルも能力補正値も上限が人間よりも上なんだろ?」
セルジオス
「確かに上ですけれど、まず餌とする自分よりも弱いモンスターとの戦闘が殆どですから、それでレベルは上がりませんし、レベルが上がる場合も同族との戦闘なんかで少し上がるぐらいで、わざわざ人間のように積極的に同等以上の相手を探してまでレベルを上げようとはしないんですよ、それにそれだけ人間という種族が脆弱だということです、人間ぐらいですよこんなにレベルが上がるのは。なので、まずどの種族と戦うのかが重要であって、レベルは二の次です、この王国に限りですが」
深澤
「なんかもっと簡単に敵の強さが分かる方法ないのか? 最初に敵の強さを調べてから戦うみたいな、数字で表してくれると凄く分かりやすいんだけど」
セルジオス
「ああ、それいいですね、でも実際は数字で表すのは難しいですよ、やっぱり長年の経験ですかね。戦闘はいろんな要素が絡みますから。例えば自分と泉の
深澤
「
セルジオス
「いえ、言います、自分の方がエナジーは高いですけど勝つのは
深澤
「それは水中で戦った場合だろ」
セルジオス
「いえ、地上でもです、そもそも
深澤
「俺でも無理か?」
セルジオス
「い、いえ、深澤さんでしたら水中でも余裕で勝てます、だ、大体ですよ、深澤さんのレベルが説明付かないんですよ、通常レベルアップシステム上、突出した個は出ない筈なんです」
深澤
「お前はどうしてだと思ってるんだ?」
セルジオス
「ち、ちょっと想像つかないですね、それこそ特別な恩寵を貰ったとか…」
深澤
「恩寵って?」
セルジオス
「し、失礼しました、特性の事です」
深澤
「詳しく頼む」
セルジオス
「は、はい、生まれながらにして神から贈られるものです、特性が付いている者は非常に稀なんですよ。自分が知っているのは勇者、創生、予知、豪運だけです、あ、確かマリベルも特性が付いてた筈です」
深澤
「何の特性だ?」
セルジオス
「それが、分からなかったんです…鑑定魔法で読み取れませんでした、こんな事は
深澤
(マリベルは俺の特性を気にしていた…大山に合わせたかどうかとも聞いていたな…ということは大山も同じ特性があるということか)
セルジオス
「どうかしましたか?」
深澤
「いや何でもない、俺の事は追々話すよ、それでセルジオスは前線で死線を潜り抜けてきたって言ったよな?」
セルジオス
「はい」
深澤
「なら戦闘の指揮はお前に任すよ、適任だろ?」
セルジオス
「はい、了解しました」
不幸中の幸いといったところだろう、同調後ならジャイアントアダマントアントと同等の強さでレベルが止まっていた筈だったが、同調前、即ちレベル0の状態で約一万匹もの蓄積されたエナジーが一気に押し寄せてきたのだから。
だが、まだこの時の俺は気づいていなかった、自分に付いた特性の恐ろしさを。
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