第22話 元剣聖セルジオス
~森の中~
角灯の灯りは足下照らし闇の中の二人の影を大きく森の木々に映し出していく。
深澤
「なあ、お前王宮騎士団に在籍してたんだろ、転移魔法とか使えないの?」
セルジオス
「魔法自体使えないです、自分だけじゃないですよ全員です」
深澤
「それ本当か? 何で使えないんだよ」
セルジオス
「王宮騎士団と宮廷魔導士団の力のバランスをとる為にです、仮にマリベルが王宮騎士団に入ったとしても契約解除されるんですよ。でもその分、物理的な力は宮廷魔導士に比べて圧倒的に上ですよ」
深澤
「圧倒的に上ってどんだけだよ、そもそもお前レベルいくつ? 200ぐらいあるの?」
セルジオス
「え、えーとそれは言えないです」
深澤
「へーそうなんだ? そっか言えないんだ」
立ち止まり笑みを浮かべてセルジオスを見る俺の手には、ダガーが握り締められている。
セルジオス
「ち、違うんです!! 守秘義務があるんです!」
深澤
「ほう、随分とご立派なんですね、セルジオスさんは」
セルジオス
「勘弁してください! 本当に言えないんです!」
深澤
「その守秘義務を破ったらどうなるんだよ?」
セルジオス
「そ、それも言えないです」
深澤
「ふーん、そっか分かったよ、言えないんだな? なら質問を変えるよ。お前が俺の質問に黙り込んだら言った事になるのか?」
セルジオス
「え、えーと分かりません」
深澤
「なら俺に何とか出来ると思うか?」
セルジオス
「す、すいませんそれも分かりません」
深澤
「話しを変えようか。俺のステータスでお前は何を上げて欲しいと思ってるんだ?」
セルジオス
「ぶ、物理系です、特に筋力と素早さを上げて欲しいです」
深澤
「そうか、なら俺は平気だと思うけどな」
セルジオス
「こ、この話し止めた方がいいと思いますが」
深澤
「じゃあこれで終わりにするよ、お前がこの世で一番恐いものは何だよ」
セルジオス
「ま、魔神です、魔神が一番恐いです」
深澤
「魔神だと!」
魔神、その言葉に戦慄が走った。秘密を守らせる為に、何かしらの呪いがかけられているとは思っていたがそれは遥かに想像を超えるものだった、だが…
深澤
「そういえば俺の能力補正値をお前に言ってなかったな、SSSSだよ、全部SSSSなんだ」
セルジオス
「!!!」
深澤
「どうだい? 俺に賭けてみないか」
セルジオスは黙って何度も頷いた。
セルジオス
「か、覚悟が出来ました、そ、それではいきますよ、上です!!! 魔神の…」
突如として二人の足下と上空にとんでもなく大きな魔方陣が現れたその刹那、上空の魔方陣より山のように巨大な魔神の足が二人を踏み潰さんと襲いかかってくる。
セルジオスは頭を抱えしゃがみ込み、深澤は両手を上げて足を踏ん張り魔神の足を受け止めるも、尚押し潰さんと力を増していく。
深澤
「セ、セルジオス大丈夫か」
セルジオス
「す、凄え!!! 凄えよ! 深澤さん」
深澤
「お前予想と全然違うじゃないか、
セルジオス
「お、重くないんですか?」
深澤
「重いに決まってるだろ! どんどん重くなってるんだぞ!」
セルジオス
「す、すいません」
数秒ほどして、セルジオスの体から黒い靄のようなものが散っていくと、魔神の足も塵のように消え去っていった。周辺を見やると視界一面木々がなぎ倒されていて、その威力を物語っていた。
秘密を知った者はセルジオス諸共皆殺し、確かにこれでは墓場まで持っていく以外に選択肢はなかったことだろう。
セルジオス
「有り難すぎて本当になんて言っていいか分からないです」
深澤
「気にするなよセルジオス、仲間だろ? これでやっと守秘義務が無くなったな」
セルジオス
「はい! もう何でも聞いて下さい」
深澤
「ならお前のレベルは?」
セルジオス
「はい、500あります」
深澤
「500! なんだよ500ってマリベルは200までって言ってたぞ」
セルジオス
「ああ、それはしょうがないですよマリベルは一般人ですから、一般的には200が限界ですよ」
深澤
「じゃあお前よりも強い奴が、王国にはごろごろいるのか?」
セルジオス
「まあ、今の王国騎士団長アレキサンダーは間違いなく自分より強いですね、その他は正直分からないです」
深澤
「何で分からないんだよ」
セルジオス
「それはレベルアップのシステムがあるからです」
深澤
「詳しく教えてくれ」
セルジオス
「はい、まずレベルアップする為には自分より同等以上のエナジーを持つ相手を倒すしかありません。王国内のモンスターはレベル200の人間より弱いんですよ、ダンジョン奥深くには、強いモンスターがいるかも知れないですけど。一般的にレベル200までって言われてる理由がこれにあたります。それで本当の王国では…」
深澤
「ちょっと待った! 何だよ本当の王国って、じゃあ此処は偽物の王国なのか?」
セルジオス
「正確には箱庭ですね」
深澤
「お前失脚した時によく殺されなかったな、普通そんな事知ってる奴を野放しにしないぞ」
セルジオス
「まあ元貴族なんで、そこはなんとかなりました。でも身分は剥奪されて財産も全て没収です、それにまるっきり野放しって訳ではないですよ、人質に取られてますので」
深澤
「親族か? 王国って怖い事するんだな」
セルジオス
「いえ、自分です」
深澤
「意味わかんねーよ」
セルジオス
「し、失礼しました、オーブです、自分のオーブを王宮が管理してるんです」
深澤
「オーブって異世界の扉を開けるあのオーブか?」
セルジオス
「はい」
深澤
「詳しく話せ」
セルジオス
「はい、オーブ自体はただのガラス玉です。簡単に割れるように作られています。そこに魂の情報を詰め込むんです。それを台座に置く事によって、異世界の扉と自分の魂が連結するんです、これで扉が開く分けです。なので連結した本人が異世界で死亡した場合、自動的に扉が閉まります。
それでこのオーブなんですが、魂の情報が入ったオーブが、ただ割れるだけなら何も起こりません、情報が入っているだけの、ただのガラス玉なんですから。でも問題なのが生きた生物がオーブに触れている場合です。こうなると話しは全く別になります、魂の情報の持ち主と魂の情報が入ったオーブを触れている者の魂が連結されてしまうのです」
深澤
「じゃあ、お前の魂の情報が入ったオーブを人猿に持たせてから人猿を殺せばお前も死ぬって事か」
セルジオス
「はい、そういうことです」
深澤
「成る程ね、そういうことだったのか。で、本当の王国ってやつは何処にあるんだ?」
セルジオス
「一般的に精霊界と呼ばれる場所です、ここより遥か西の大陸に在ります」
この瞬間、優先順位が明らかに変動した。セルジオス、マリベル、大山へと。そして胸を高鳴らせながら口を開いた、
深澤
「セルジオス、神はいるか?」
~宿屋~
森を抜けて宿屋に戻る頃には夜も進み、もうすっかり暗くなってしまった。店主に荷車を預けて部屋に戻ると、約束通り大山とマリベルが待っていた。
マリベルは不機嫌で大山の左頬は赤く手形が残っている。マリベルの目を見て頷くと同じようにマリベルも頷いた。察してくれたようだ。
深澤
「大山、マリベル、新たに仲間になったセルジオスだ仲良くしてやってくれよ」
セルジオス
「二人共、宜しくな」
大山
「師範やん、ホンマけ」
セルジオス
「おう、空いた時間にまた剣術教えてやるからな大山」
大山
「自分勘違いしたらアカンで!! 誰に口聞いてるん! ワシ先輩やで!」
深澤
「大山、セルジオスには後で俺から言っとくから大きな声だすなよ」
大山
「課長、ホンマ頼みますわ」
深澤
「ああ、それからもう1つ俺からもあるんだ」
俺はマリベルの横に立ち腰に手を回して引き寄せた。
深澤
「お前達に言っとくけどマリベルは俺の女だ、手を出すなよ」
マリベル
「!」
大山
「!!!」
セルジオス
「分かりました」
深澤
「今日はもう遅いから後は明日だな、部屋振りだけど…」
大山
「か、課長とマリベルが一緒でっか?」
深澤
「いや、マリベルはそのままの部屋だ。俺はセルジオスと一緒の部屋にするよ、大山は仕事があるから、この部屋使えばいいよ。ということで部屋に行こうか、セルジオス」
セルジオス
「はい!」
二人が部屋を出ると、一緒にマリベルも出ようとするが大山が引き止める。
マリベル
「ちょっと、何ですか!」
マリベルの嬉しそうな顔から笑みが消える。
大山
「マリベル、さっきのホンマけ? 二股はアカンって。課長にワシ達の事言ったらアカンで、それにしてもあの人ヤバいて不倫やん」
マリベル
「大山さんも素敵な恋人がいるじゃないですか」
大山
「それってワシが本命ってことけ?」
マリベルは大山に何も言わずにっこりと笑って部屋を後にして一階の酒場へと下りて行った。
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